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みるなのくら
『見るなの蔵』

― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 野村 純一

 むかし、あったけど。
 村の爺(じ)さま、山ん中で働いてたけど。
 暗くなってきて、爺さま道に踏み迷って、困っていると、向こうの方に灯(ひ)がテカン、テカン、と見えるんだと。
 その灯、頼(たよ)りにたどり着いてみると、山ん中の一軒屋に、とでもきれいな姉こ一人いたなだど。
 「お前え、どごさ行ぐ」って、して、
 「おれ、ちょっと行って来るさげ、お前え留守番(るすばん)していてくれ」
 って、爺さま、そごの家の留守番、頼まったど。
 「おれの留守の間、馬、養(やしな)ってくれれば良いさげ」
 って、ほして、

 
 「こごの家に蔵(くら)が三つある。三つある蔵の中(うち)、二つまでは見ても良いのだが、三つ目の蔵はなにしても見ないでいてくれ」
 って。ほして、そのきれいな姉こ出かけて行ったど。
 そのあと、爺さまひとつ目の蔵開けて見たども、何もないのだと。
 爺さま、二つ目の蔵開けて見たども、ここにも、何もないのだと。
 爺さま姉こと約束さった通り、三つ目の蔵は開けねで留守番していたけど。
 やがて、姉こ、無事に旅から戻って来て、大変喜んで、爺さまに宝物えっぺ呉(く)れたって。
 爺さま、喜んで村の家さ帰って来たけど。
 ほすっと、隣(となり)の良ぐなし爺、その宝物見で、また、山さ行ったけど。
 日のくれるまで山ん中さいで、ズーッと行ぐと、向こうの方に灯がテカン、テカン、と見えるんだと。

 
 そこで、その灯頼りにたどり着いてみると、一軒屋ん中に、とでもきれいな姉こ一人いたなだど。良ぐなし爺、
 「道間違ったから一晩泊めでくれ」
 って、泊めてもらうことにしたど。
 ほすっと、この姉こ、
 「おれ、ちょっと行ぐさげ、お前え、留守番していてくれ」
 って、その家の留守番、頼まったど。
 「留守の間、馬、養っていてくれれば、それで良いさげ」
 って、ほして、
 「ここの家に蔵が三つある。三つある蔵の中、二つまで見ても良いのだが、三つ目の蔵は、なにしてもみないでくほ」
 って。良ぐなし爺、
 「あ、あ、良いとも」
 って、約束したど。姉こ、安心して出掛けたど。

 
 良ぐなし爺、ひとつ開げて見、二つ開げて見したども、何もないのだど。ほして、三つ目の蔵も開けて見たど。
 そしたところ、その蔵の中には、鶯(うぐいす)が一羽いで、ホー、ホケキョ、と鳴いで飛んで行ってしまったど。
 しばらくすると、旅の姉こが帰って来て、
 「おれ、仏様に言いつけらって、法華経(ほけきょう)を唱えでいたなだども、もう少しで唱(とな)え終るところで見られてしまった」
と、いって、大変悲しがって、飛び立ってしまったど。
 鶯の飛び立ったあとは、山と谷だけで何もなかったど。

 どんぺからっこ、ねっけど。

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