― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
昔、あるところに運の悪い男がおったと。
ある年(とし)の瀬(せ)に、男は隣り村へ用足しに行って帰りが夜中になったと。
林の中の道を、木がざわざわするたんびに立ち止まり立ち止まりして歩いて来たら、向こうの木の株に黒い着物の年寄りが腰掛けておったと。
「こりゃちょうどええ道連れがでけた。おおい、そこのおひとよぉ」
男が近寄ると、年寄りはやせこけた真っ青な顔でにたり笑いしたと。
「わしを呼んでくれたかや」
「こんな夜更(よふけ)に年寄りの一人歩きは危ねえ、何が出るか知れたもんじゃぁねぇ。俺らがついてってやる」
「それは手間がはぶけた」
男は、ン?と思ったが二人連れだって歩いたと。
「ときに父(と)っつぁん、お前(めえ)さん、どこのおひとでどこへ行きなさる」
「ヒヒヒ、わしか、わしは死神で、お前を待っていたところだ」
「死、死神だと。俺ら、俺らに何の用だ」
「ヒヒヒ、わしの用と言ったらきまっちょる。おうおう、そんなに目をまんまるにして」
「お、俺ら、お前に用ねえ。お前なんぞ知らん」
「そんなに嫌うな。今日は予告編だから、今すぐどうこうしょうというんじゃない。お前のことをよおく調べたら、お前は今まであまりにも運がなさすぎる。このままでは連れて行き甲斐(がい)がない。そこで、ちいっとはいいめにあわせてやろうと思ってな」
「いいめって何だ」
「金儲(かねもう)けをさせてやろう。お前は明日から医者になれ。わしはお前にだけ見えるように姿を現わすから。病人の頭の方にわしが現れたらその病人は助かるが、尻の方に現れたら、こりゃ駄目(だめ)だ。助かるようだったら呪文(じゅもん)を唱(とな)えたらいい」
「アヤラカモクレン カンキョウチョウ テケレッツノパア」
と呪文を覚(おぼ)えた男が、次の日医者をふれこむと早速長者の家から頼まれたと。
男が病人の横に座っていると、死神が病人の尻の方にポーと現れた。
『ありゃ、初仕事というに尻の方じゃ金にならん』
男は病人をかかえると頭と尻とをくるりと取り替えた。そして、
「アヤラカモクレン カンキョウチョウ テケレッツノパア」
呪文を唱えると病人は「あ~、よく眠った」と起きあがったと。
男が長者の家からたくさんの金をもらい、ごちそうにもなって出てくると、死神が物かげに隠れて待っていたと。
「わしをあざむくなんてひどい奴だ。お前の寿命は、これでまた縮んだじゃないか」
「あとどれくらいだ」
「見せてやる」
男が死神について土の中に入っていくと、ローソクがいっぱいともっていたと。
「このロ―ソクは人の寿命というもんだ。このローソクが燃(も)え尽(つ)きたときにゃ、死ぬんだ」
「俺らのローソクはどれだ」
「ほらこれだ。お前がわしをあざむいたので、ローソクが短かくなってしまった」
「こりゃ困った。何とかならんか」
「わしのが長いから、少し分けてやる」
男は喜んでローソクを継ぎたそうと息をとめようとしたら、思わず、ふうっと吹いてしまった。
「ありゃ、消えた」
どんびんからりん すっからりん。
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むかし、土佐藩(はん)のお抱(かか)え鉄砲鍛冶(てっぽうかじ)に五平という人がおったそうな。 五平の鉄砲は丈夫(じょうぶ)な作りと重量感で、今でもよう知られちょる。 ところで北川村の島という所に、その五平の作った鉄砲を持った猟師(りょうし)が住んじょった。
むかし、あるところに、三人の息子を持った分限者がおったと。あるとき、分限者は三人の息子を呼んで、それぞれに百両の金を持たせ、「お前たちは、これを元手にどんな商いでもええがらして来い。一年経ったらば戻って、三つある倉の内をいっぱいにしてみせろ。一番いいものをどっさり詰めた者に、この家の家督をゆずる」
「死神様」のみんなの声
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