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おくがたにばけたきつね
『奥方に化けた狐』

― 愛媛県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、今の道後温泉(どうごおんせん)のそばに、湯月城(ゆづきじょう)というお城があって、河野伊予守道直(こうのいよのかみみちなお)という殿さんがおったそうな。
 ある日、殿さんが狩(か)りに出て帰ってみると、奥方がふたりになっている。
 顔も同じなら声も同じ、姿、しぐさも瓜(うり)ふたつで、
 「わたしがほんとよ」
 「にせものはあちらよ」
と、殿さんに向かって、にっこりほほえむのだと。
 どっちがどうと、見分けがつかん。
 殿さんは、目ぇを白黒させてしまった。

 
 医者をよんで診(み)せると、
 「こ、こ、これは離魂(りこん)ともうして、魂がふたつに分かれる不思議な病でございまするゴニョゴニョ」
と、わけのわからんことを言う。
 カミやホトケにいのってもききめがない。
 いよいよこまった殿さんは、二人の奥方を座敷(ざしき)にとじこめて、ようすを見ることにした。
 腹のすいたところをみはからって、膳(ぜん)を出すと、ひとりの奥方が、耳を、びくびくっと動かし、がつがつと食べている。
 「それ、あれがにせものじゃ」

 殿さんのひと言で、家来(けらい)たちがその奥方をとらえ、庭の杉の木にくくりつけて松葉でいぶすと、コンコンせきをして、古狐が正体をあらわしたそうな。


 「おのれ、狐のぶんざいでようもこのわしをだましおった。こともあろうに、奥の姿に化けるとはかんべんならぬ。火あぶりにしてくれる」
 殿さんは、こうどなりつけた。
 家来たちが火あぶりの用意をしていると、何百匹もの狐が、どこからともなくぞろぞろあらわれ、頭をすりつけてたのんだと。
 「かんにんして下さい。この狐は、四国にすむ狐の中で最もとうとい狐です。もし殺したら、ご領内(りょうない)に、きっと悪いたたりがあります」
 あまり口ぐちにたのむので、殿さんは許(ゆる)してやったそうな。
 奥方に化けたとうとい狐は、「もうこれからは四国にはすまぬ」と、わび証文(しょうもん)を残し、みんなを連(つ)れて立ち去って行ったと。

 四国に狐がおらんようになったのは、このときからなんじゃそうな。 

  

「奥方に化けた狐」のみんなの声

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