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むごんくらべ
『無言くらべ』

― 和歌山県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところにお爺(じい)さんとお婆(ばあ)さんがおった。

 あるとき、隣(となり)から餅(もち)を七つもらった。
 夜も更(ふ)けて、天井(てんじょう)にぶら下げたランプの下で、餅を盛(も)った皿を真ん中に、お爺さんとお婆さんが向かい合って座っていた。

 
 一つ目をお爺さんが食べると、お婆さんも一つペロリと食べた。
 二つ目をお爺さんが食べると、お婆さんもまた食べた。
 こうやって、三つ目をお爺さんが食べると、お婆さんも三つ目を食べた。
 あとにひとつだけ残(のこ)った。

 
 だけど、残ったのがひとつというのは手を出しづらいもんで、ふたりとも手をのばしたりひっこめたり、もじもじしておった。

 そのうちに、お爺さんが罰(ばつ)の悪そうな顔でモゴモゴと、
 「どうじゃろ、だんまりくらべをして、口をきかなかった者が、この一つを食べるというのは」
というた。
 夫婦ちゅうもんは、長いこと一緒にいると考えることが似てくるとみえて、ちょうどお婆さんもそう考えておったところだったから、一も二もなく賛成(さんせい)した。

 真ん中に一つの餅をはさんで、こうしてお爺さんとお婆さんの黙(だ)んまりくらべが始まった。
 
 ふたりはいつまでも黙(だま)っていたが、とうとう退屈(たいくつ)になった。
 お爺さんが布団(ふとん)の中へ入ると、お婆さんも入ってきた。
 お爺さんが布団から這(は)い出ると、お婆さんも這い出る。


 他にすることもないので、また餅の前でにらめっこ。
 なかなかどうして、勝負(しょうぶ)がつかないのだと。
 そしたらそのとき、泥棒(どろぼう)が忍(しの)び込んできた。箪笥(たんす)の中のものを大風呂敷(おおふろしき)に包んでいるふうだ。やがて襖(ふすま)がそろりと開けられ……来た。お爺さんとお婆さんはニラミつけてやったと。
 泥棒はびっくりした。荷物(にもつ)を放り投げて、
 「勘弁(かんべん)して下さい」
と、畳(たたみ)に額(ひたい)をこすりつけてあやまった。
 が、お爺さんとお婆さんは、口もきかなければ、動きもしない。ただ座ってにらんどる。
 泥棒はけげんな顔をしていたけれど、だんだん態度(たいど)がでかくなって、
 「何だ、二人とも、しゃべるも立つもままならんのか、驚(おど)かせやがって」
というと、荷物を包んだ大風呂敷を担(かつ)ぎ、ついでに
 「こいつも、もろうとく」
というて、お爺さんとお婆さんの間にある皿の餅を盗(と)ろうとした。


 お婆さんは、もう辛棒(しんぼう)出来ん。
 「こらあ」
と叫んだ。
 さぁ、泥棒は魂消(たまげ)た。ひっくり返って、盗(ぬす)んだ荷物を放り、すっとんで逃(に)げて行った。
 このとき、今まで黙(だま)っていたお爺さんが、
 「そうれ、餅はおれのもんだ」
というて、最後(さいご)のひとつを、うまそうに食べたと。

 こんでちょっきり ひと昔。

「無言くらべ」のみんなの声

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