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ひとつめだぬき
『一つ目狸』

― 和歌山県 ―
語り 平辻 朝子
再話 和田 寛
再々話 六渡 邦昭

 むかし、むかし。
 和歌山県白浜町(わかやまけん しらはままち)の富田川(とんだがわ)河口から大字袋(おおあざ ふくろ)へ越えて行く途中(とちゅう)の坂に、一匹の変わった狸(たぬき)がおったと。目ン玉が一(ひと)つで、それを大きく見開いては人を驚(おどろ)かす狸であったと。


 害(がい)というてもそれだけだから、村人は ”一つ目狸” いうて慣(な)れてしまったが、旅人はそうはいかん。


 ある晩、ひとりの旅人が坂道を通った。
 一つ目狸は道端(みちばた)の茂(しげ)みに隠(かく)れとって、いきなり旅人の前へ飛(と)び出た。して、顔の真ん中にある一つ目でにらみつけたと。旅人は、
 「で、出たぁ」
いうて、悲鳴(ひめい)をあげて逃(に)げて行ったと。

 一つ目狸は、
 「まだ何もしとらんのに」
と、つまらなそうにしとったと。


 次に坂を通ったのは、肝(きも)っ玉の太い男だった。
 この男は、狸が一匹、目の前に飛び出たくらいでは驚かなかったと。

 そこで、一つ目狸は目ン玉を見開いて男をカッとにらみつけた。
 すると、男も負けずににらみ返す。
 一つ目狸は、目ン玉を段々(だんだん)に大きくしてゆき、やがて、顔いっぱいの目ン玉にした。
 これには魂消(たまげ)て、肝の太い男も逃げて行った。

 一つ目狸は、ケタケタ、ケタケタって、はらをかかえて笑ったと。


 その次に坂道を通ったのは、目のまったく見えない座頭(ざとう)さんだった。
 一つ目狸は道端の茂みから座頭さんの前に飛び出すと、目をむき出して、
 「どうだ、驚いたか」
というた。
 ところが座頭さんには、何が何だかさっぱりわからん。
 「いいや」
というた。一つ目狸は目ン玉を段々に大きくしながら、
 「どうだ、これでもか」
というた。座頭さんが、
 「いいや、ちょっとも」
という。
 「どうだ」
 「ちょっとも」

 


 一つ目狸は意地(いじ)になって、ますます目ン玉を大きくした。終(しま)いにゃぁ、己の頭を包(くる)むくらい目ン玉むいたので、とうとうひっくり返ってしまった。

座頭さんが行ってしまってから一つ目狸は、
 「いやぁ、人間にはおっそろしいやつがおる」
というたと。

 
 この晩にこりたのかどうかはわからんが、いつの間にか一つ目狸を見かけなくなったと。
 その坂を、今、”一目坂(ひとめざか)” というけど、”一つ目坂” の変化じゃろうか。それとも、別の謂(いわ)れがあるのやろうか。
 
 昔、こんな話聞いたな。

「一つ目狸」のみんなの声

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