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かっぱのおんがえし
『河童の恩返し』

― 青森県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところにひとりの正直(しょうじき)な男が住んでいたと。
 ある年の春、用水路の脇の田圃(たんぼ)へ田打(たうち)に行ったと。
 昼時(ひるどき)になったから飯(めし)にしようと思って、田の畔(くろ)に、冷(さ)めないように代(かわ)りの肌着と股引(ももひき)に包んでおいた握(にぎ)り飯をとりに行ったら、握り飯だけなくなっていたと。
 あたりを見ても誰もいない。烏(からす)かトンビでもきて盗っていったようすもない。

 
 「はて、誰が盗って行ったべ」
と、腹ぁ立ったが仕方がない。空きっ腹(すきっぱら)を我慢(がまん)しながら仕事をして、早めにきりあげたと。
 次の日もその田圃へ行ったと。
 握り飯を、今日も盗られたらたまらんと思って、水路脇の柳(やなぎ)の木の枝にぶらさげて、仕事をしながらでもいつでも見えるようにしていたと。
 そうしたら、昼近くなった頃、柳の木の下の水路の堰(せき)から、五つ六つぐらいの子供の頭が、そろりそろり出た。
 男は見ないふりして田打をしていたと。
 そうしたら、その子供、あたりをうかがいながら、柳の木の枝に手をのばしたと。男は、
 「誰だぁ、おれの飯盗むやつぁ」
と、大声で叫んだと。
 その声聞いた子供は、さっと手を引っ込めたと。

 
 男がそのまま田打をしながら様子を見ていたら、今度は手ぇだけニョォーっとのばしてきた。それが長い手ぇだと。
 「こらっ」
と叫んだら、長い手がゴムみたいにヒョッと縮(ちぢ)んだと。
 「ははぁ、これぁただの子供でねぇな。きっと河童だべ。ようし、生捕り(いけどり)にしてやるべ」
 男は縄(なわ)で罠(わな)を作り、握り飯に仕掛けたと。
 そして、そ知らぬ顔で、離れた所で田打をしていたと。
 そしたら河童のやつ、また来たと。柳の木の枝へ、手ぇのばしたと。ニョォーって。
 「そうら来た。いまだ」
と、縄のはしをぐいっと引っ張った。そしたら河童の手、ものの見事に罠にがっちりかかったと。
 「こらっ、おれの飯盗るとは悪い河童だ。ただではおかんぞ。ぶち殺してやる」
 男はおこって鋤(すき)を振りあげたと。

 
 「助けてけろ、命だけは助けてけろ。必ず恩返しするからぁ。オエン、オエン」
 河童は泣きながら頼んだと。
 
河童の恩返し挿絵:福本隆男

 
 「恩返しって、何だ」
 「人間には知らね、おらたちだけに伝わる腰の痛み、肩の痛み、腹の痛みを治(なお)す方法だ」
 「なら、教えろ」
といって、教わったと。
 「こんど、こんないたずらしたり、村の童子(わらしこ)の尻こ玉(しりこだま)盗れば、そんときはこらしめるぞ」
 男はそういって、河童を放してやったと。
 それからのち、男は、腰痛めたり、肩痛めたり、腹病(や)みで苦しんでいる人達を治してやって、たいした喜ばれたと。

 とっちぱれ。

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