― 島根県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
とんとん昔があったげな。
あるところに九つ(ここのつ)になる女の子とお婆(ばあ)さんと二人おったげな。
その女の子のお父さんやお母さんは亡(な)くなって、もうおらんげな。
二人はだんだん暮らしに困ってきたげな。
「家が貧しゅうてお前を養(やしな)うにも容易でないから、すまんが奉公(ほうこう)に行ってごせや」
「わし、奉公へ行くはええども、いっつもお婆ちゃんの顔を見ていたい」
「困ったねぇ、ほんなら、わしの顔と同じお面を買って来ちゃるけん」
「ほんなら行く」
お婆さんは町で、自分の顔そっくりなお面を作ってもらって来て、女の子に与えた。そして二人して峠(とうげ)を越(こ)え、海ひとつ渡って奉公先へ行ったげな。
「お婆ちゃん、これで帰るけんな、元気を出すだよ」
こう言って女の子を置いてお婆さんは帰って行ったげな。
九つになる女の子は、その家で子守をすることになったげな。
女の子は、朝起きるとお婆ちゃんのお面を出して見、昼、子守りから戻ると出して見、また晩には寝る前にも出して見いして、一日に何度も出して見いしておったげな。
あるとき、その家の10歳(とお)ばかりの男の子がそれを知って、不思議に思い、女の子が子守の子を負ぶって出たあと、そっと風呂敷(ふろしき)をほどいてみた。そうしたら、女の子を連れてござらっしゃったお婆さんと同じ顔したお面が入っていたので、こいつ、ひとつからかっちゃろうと、鬼のお面と入れ替えちょいたんだげな。
女の子が昼間戻って見たら、お面が鬼のお面になっているのでびっくり仰天(ぎょうてん)して、そのままテッテテッテ海を渡って峠を上がって行ったげな。
そげしたら、その山に博奕(ばくち)打ち達がおって、その女の子を見つけ、
「ああ、あすこ、かわいげな姉こが上がっておるけん、あれ呼んでお茶わかしや、ご飯たきさせちゃろう」
という相談になって、
「おおい姉こ、こっちゃ来ぉい」
「逃げちゃならぁん」
「かえせぇ」「もどせぇ」
って、博奕打ち達が呼んだげな。
女の子はそのまま、ドッドドッドと坂を上がりよったけれども、とうとう捕(つか)まえられたげな。
「こらえてください。わしゃ帰りたいけん」
「いんや、そぎゃんわけにはならんけん。早いこと茶ァ沸(わ)かしてごせ」
仕方ないので女の子もあきらめて、火打ち石で火を作り、茶を沸かそうとするのだが、青松葉(あおまつば)がいぶって煙たくって辛抱(しんぼう)出けん。
それで、あの鬼のお面をかぶれば楽になるかしらんと思って、風呂敷の中からそれを取り出してかぶったげな。
博奕打ち達は、戸板の上に膳(ぜん)をやり、そこへ小判をたくさん積んで博奕を始めかけていたが、一人が女の子を見て驚(おどろ)いたげな。
「うわぁぁ、かわいげな姉こと思っていたのに鬼になっちょる。ありゃあ人間の子だない、鬼子だったもんだ。早(はよ)逃げろ」
みんな、われ先にと逃げ去ったげな。
煙たいのが楽になった女の子は、お面をはずしたら誰も人はおらんし、戸板や膳の上には山ほど小判が積んであるげな。
そいで、小判を全部風呂敷に移して、トットトット家へ帰ったげな。そして、事の次第(しだい)をお婆ちゃんに話したげな。
「そのお金は神さんが授けて下さったもんだ。これがありゃ、お父さんやお母さんが無ぁても、なんぼでもよい嫁さんになれるけんなあ」 お婆ちゃんは女の子の頭をなぜて、そのお金を受け取り、二人はそれからしあわせに暮らしたげな。
そいで昔のこんぱち。
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むかし、豊後の国、今の大分県臼杵市野津町大字野津市というところに吉四六さんという面白い男がおった。ある日のこと、吉四六さんにしては珍しくすることがなくて、縁台に腰かけていた。
「女の子と鬼のお面」のみんなの声
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