『欲深爺』が出てきた時点でオチは見えていましたが、解っていてもやっぱり面白かった!( 10歳未満 / 女性 )
― 埼玉県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭
むかしあったと。
あるところに正直爺と欲深爺が隣あって暮らしてあったと。
あるとき、正直爺が山へ薪(たきぎ)を拾いに行った。
たくさん拾って束(たば)ねていたら、足元にドングリの実が落ちていたので、三粒拾った。
束ねた薪を背負って、休み休み山を下りていたら日が暮れたと。
「こりゃいかん。足元がよく見えん。今晩一晩、破れお堂に泊ったほうがよさそうだ」
正直爺は、そろりそろり歩いて、ようやく山の古いお堂に着いた。
「したども、夜中に誰が来んともかぎらん」
正直爺は用心して天井裏に寝たと。
すると、真夜中頃になって、誰やらドガドガとお堂に入ってきた。
眼がさめた正直爺は、そおっと天井の板をずらして下を覗(のぞ)いて、魂消(たまげ)た。
なんと、鬼どもが車座(くるまざ)になって、これからバクチを打つふうだ。
ある鬼が打出の小槌(うちでのこづち)を出すと、他の鬼たちが鉄棒で床板を打ち鳴らして、
「黄金(こがね)でろ」
「白銀(しろがね)でろ」
と言うた。黄金と白銀がザンバランとでた。
鬼たちは「ウオー」「ウオー」言うて、それを分けている。どうやら、それがバクチの元金(もとがね)らしい。
「見つかったらおおごとだぁ」
正直爺は、おそろしくて歯がガチガチ鳴った。
下に聞こえてはならんと、アゴをおさえたけど、ふるえは止まらん。ますますガチガチ鳴った。
なんとかせにゃあと思うて、山で拾うたドングリを噛(か)んでみた。そしたら、噛み砕けてカリッと鳴ったと。
「何だ今の音は」
「おお、たしかに聞こえた」
鬼どもは、ギクリとして顔を見合わせている。
「こりゃあいかん」
正直爺は、あわててまたひとつ噛んだ。けど、またカリッと噛み砕けたと。歯の音鳴るなって強く噛んだら、今度は、ギリギリッて歯ぎしりがした。
鬼どもはいよいよ驚(おどろ)いて、
「こりゃあこの家(や)のつぶれる音だ」
「こりゃいかん。逃げろ逃げろ」
と言うて、あわてて逃げて行ったと。
夜が明けて、正直爺が天井裏から下りると、床には黄金だの白銀だのがいっぱい散らばってあった。みんなかき集めて、大喜びで家に帰ったと。
婆さんと二人で持ち帰った銭を数えていたら、そこへ隣の欲深爺がやってきた。
「や、やや、その銭どうしたや」
「あ、ああ、これな、これは昨夜(ゆんべ)山のお堂に泊っていたら鬼どもが来てバクチを打つふうだ。あんまりおっそろしくて、拾ったドングリを噛んだら音がした。鬼どもがお堂がつぶれる音と勘違いして逃げてってな。あとに残っていた銭をもろうてきた」
「あやぁ、うまいことやったなぁ」
隣の爺、うらやましくてならない。
「わしももろうてくる」
と言うて、山の破れお堂へ行ったと。
真夜中になって、鬼どもが集まって、また銭をだした。隣の爺は、
「ははぁん、今鳴らせばいいんだな」
って、ドングリをカリッと噛んだ。
すると鬼どもは、
「昨夜もあの音がした」
「おうよ。けんど、この家はつぶれとらん」
「やや、人間くさいぞ」
「昨夜の銭盗んだのも、こいつだな」
と言うて、お堂の中を捜しまわったからたまらん。
隣の欲深爺はすぐに見つかってしまったと。
天井のネズミがチュウチュウ、どっぴん。
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