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こぞうのふたおや
『小僧の二親』

― 岡山県 ―
語り 平辻 朝子
採集 岡山民話の会
再話 六渡 邦昭

 むかし、ある寺に和尚(おしょう)さんと小僧(こぞう)さんがおったと。
 小僧さんはこんまいながらも、夏の暑いときも、冬の寒いときも、毎日、和尚さんより早起きをして寺の本堂と庭を掃除(そうじ)し、その上、食事の支度をしたり日々のこまごました用事までこなすので、和尚さんは大層(たいそう)喜んでおったそうな。
 
 ある日のこと。
 檀家(だんか)の人が来て、
 「いついっ日(か)、わし方(がた)で法事をしようと思うとりますが、かまわんでしょうか」
ときいた。和尚さんは、
 「その日は、さしつかえない」
と応(こた)えた。

 
 その法事の日、
 「小僧、留守(るす)をたのんだぞ」
 「はい」
 和尚さんが出掛(か)けてしばらくすると、別の檀家の人が来て、仏(ほとけ)様にボタモチを供(そな)えて掌(て)を合わせ、帰って行った。
 小僧さんはそのボタモチをちらちら見とったが、
 「和尚さんはいつも法事でご馳走(ちそう)を食べてくるんやし、ようし、和尚さんがいない間にあのボタモチ、食うちゃれ」
というてボタモチを仏様から下げてきて食うた。けど全部は食べきれんかった。
 「残ったのをどうにかせにゃあいけんぞ。さて、どこへ置いとこうか」
と、うろうろしてもいい隠(かく)し場所が見つからん。外へ出てみたら、庭の木の根っこの辺りが土を盛(も)ったようにこんもりとなっとった。


 「あそこを掘(ほ)って埋(う)めとこう」
 ボタモチを器(うつわ)に入れ、油紙でしっかり包んで木の根元に埋め、土をかけておいた。

 やがて法事から帰ってきた和尚さんは、
 「晩(ばん)ご飯はすませた」
というて、風呂に入って寝(ね)たと。
 小僧さんも、にっこりして寝た。

 次の日の朝、小僧さんがいつものように早ように起きて戸を開けたら、大雪が降(ふ)っとった。
 さあ、ボタモチのことが気になってしょうがない。つい、歌をよんだ。
 「大雪降って、寒なって、庭の枯(か)れ木は折れるやら 下のボタモチなんとしたやら」
 そしたら、いつの間にやら和尚さんが起きてきて、小僧さんのうしろから、
 「ほう、歌よみしたか。もう一遍(いっぺん)詠(よ)んでみい」
というた。小僧さんは、とっさに、
 「大雪降って 寒なって 庭の枯れ木は折れるやら 郷里(くに)の父母なんとしたやら」
と、変えてよんだそうな。


 和尚さんは、雨につけ雪につけ、郷里の二親が思われるのかなぁ、いじらしいこっちゃ。と思うて、
 「郷里の二親に会うてこい」
と、いうたそうな。小僧さんは、
 「はい、それじゃあ行ってきます」
というて庭の木の根元に行き、ボタモチを掘り出して食べ、
 「和尚さん、無事に二親に会(お)うて、ただいま帰りました」
と、けろっとして、こういうたと。
 それもそれも一昔(ひとむかし)。

「小僧の二親」のみんなの声

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