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まめのこな
『豆の粉』

― 岩手県 ―
語り 井上 瑤
再話 平野 直
再々話 六渡 邦昭

 昔々、あるところに、爺様(じさま)と婆様(ばさま)があったとさ。
 あるとき、爺様が庭の前を掃(は)いていると、豆コが一つ、隅(すみ)から、ころころころと転がり出はった。
 その豆を前にして爺様は、
 「婆様ナ婆様ナ、豆コ一つ見つけたが、なじょにすべ。庭の隅コさでもまいておくべか」
と婆様に語(かた)った。
 「はて、庭の隅コは、食いしんぼうな鶏が来てほじくり申す」
と婆様が心配するので、
 「ほんだら小屋コさ入れてしまっておいたらよかべ」
といった。
 


 「小屋コもいいが、大きなネズミが出申(でもう)す」
 「はてはて、そんだらば板の間さ置くから桝(ます)コ持って来い」
 「爺様ナ、爺様ナ、板の間には目ん玉の黒い猫がいて、つんまりさんまり、ひっぱり申す」
 爺様はいよいよ困って、
 「この上はいっそうのこと、豆の粉にしてとって置くべや」
といって、鉄のほうろくに入れて煎(い)りこがした。
 
豆の粉挿絵:福本隆男


 煎るが煎るが煎るうちに、小んまい一粒の豆コがかがみ餅(もち)ほどにふくれて、鉄のほうろく一杯(ぱい)になった。
 石臼でひくには大きすぎるので、臼に入れて、どんがらやい、どんがらやい、どんがらやいと搗(つ)いた。搗くが搗くが搗くほどに、黄粉(きなこ)が五升桝でも量(はか)りきれないほど出来た。
 「婆様ナ、婆様ナ、黄粉が出来たので隣さ行ってフルイを借りて来い」
 「俺(おら)、嫌(やん)だ。履(は)いでぐ物ないから、俺、嫌だ」
 「ほゆごと言わねで、草履(ぞうり)でも足半(あしなか)でも履いで行け」
 「足半履げばピチャン、ピチャンていう。草履ば履けばスタパタって駄目だもの」
 「そんだらば足駄(あしだ)でも履いで行けばよかべ」
 「足駄を履けば、カラコロ音する」
 「そんだらばフルイはいらね。これで間に合わせべや」
と、爺様はふんどしをはずしてフルイにかけたと。
 

 
 さて、豆の粉にはしたが、またまた置き場所に困ってしまった。
 「爺様ナ、爺様ナ、台所さ置けば、いたちコぁ見つけべし。板の間さしまえば、黒い猫が見てるべし。なじょにしたらよがべなし」
と、婆様は、桝に入れた豆の粉を持って、うろうろしているので、爺様は、
 「えじゃ、えじゃ、おれの寝床の中さ入て置け」
といった。
 晩げになって、爺様は大切な大切な豆の粉を抱いて寝申したが、夜中に、大きな屁をばひとつ、ぼんがらやっと、ぶっ放(ぱな)した。その勢いで、豆の粉たちァ、
 「はあ、爺様の屁っこは、臭(く)せじゃ。ほんが、ほがほが」
と、みんな吹っとんで、婆様の尻のとこさ行って、ひっついた。


 これを見た、食いしんぼうな鶏だの、大きなネズミだの、いたちコだの、目ん玉 のまっ黒い猫だのが、ぐぁら、ぐぁらと駈(か)けて来て、
 「そりゃ、黄粉たちゃ、塩っ辛くなるでば。ほい、ほい」
と、婆様の尻っぺたについた黄粉ば、ぺちゃくちゃなめてしまったとさ。

 これも天保(てんぽ)※のはなしだと。
 


  ※天保:てんぽう、または、てんぽ。ほらの意。

「豆の粉」のみんなの声

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