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きっちょむさんやまをうつす
『吉四六さん山を移す』

― 大分県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭

 昔、豊後(ぶんご)の国、今の大分県(おおいたけん)臼杵市(うすきし)野津町(のつまち)大字(おおあざ )野津市(のついち)というところに、吉四六(きっちょむ)さんという面白(おもしろ)い男がおった。頓智働(とんちばたら)きでは誰(だれ)ひとりかなう者が無(な)いほどだったと。
 
 あるとき、吉四六さんの村の者が四、五人集まって、立ち話をしておった。


 「今年は作物の育ちがよくねぇなぁ」
 「風のせいだ」
 「その風も、もとはといえばあの山のせいよ。あの山から吹(ふ)き下ろす風が、今年はめっぽう冷(つめ)たかったで」
 「あの山と吉四六の悪知恵(わるぢえ)にゃあ、わしら随分(ずいぶん)泣かされとる」
 「そうじゃ、その二つがなけりゃ、心安らかなんじゃがのう」
 「どうせ智恵(ちえ)を使うんなら、あの山を除(の)けるように使うてもらいたいもんじゃ」
 「まったくじゃあ」
 「それにしても、一度、吉四六をギャッフンと言わせてみたいもんじゃのう」
 こんなことを話おうていたら、丁度(ちょうど)そこへ、吉四六さんが通りかかった。


 「おい、お前ぇたち。やせ頭ひっつけて何を相談(そうだん)しちょるや」
 「うはっ、びっくりしたぁ。噂(うわさ)をすれば影(かげ)ちゅうのはこのことだ」
 「さては、おれの陰口(かげぐち)たたいちょったな」
 「と、とんでもねぇ。いかに頓智の吉四六どんでも、向こうのあの山を動かすことは出来んじゃろ、ちゅうとったところじゃ。こればかりは、のう、吉四六どん、出来めえ!?」
 「なんの、おれに出来んことがあるもんか。簡単(かんたん)だ」
 「まさか」
 「その、まさかよ」
 「うんにゃ、出来ん、出来ん」
 「出来たらどうする」
 「百両やる。あの山を海に沈(しず)めてくれたら、村の者みんなで百両のお礼をするわい。なあ」
 「おう、やる」
 「やる」


 「そんな約束(やくそく)をして、あとで困らんか」
 「吉四六どんこそ、あとで出来んかったちゅうて泣きついても知らんぞ」

 次の日、吉四六さんは薪(たきぎ)と藁束(わらたば)をかついで、村の主(おも)だった家々の軒下(のきした)に積(つ)んでまわった。
 その後(うしろ)から、山を移(うつ)すとの評判(ひょうばん)を聴(き)いた村の人たちが、ぞろぞろ、ぞろぞろ連(つ)いてまわる。
 「さあ、用意が出来た。皆の衆(しゅう)、危(あぶ)ないからどいててくれ」
 皆が離(はな)れて見ているなかで、吉四六さん、おもむろに懐(ふところ)から火打ち石を取り出した。


 「き、吉四六どん、何をする」
 「なぁに、向こうの山を海に運ぶには、こん家々がじゃまになる。先(ま)ずは焼(や)き払うてからと思うてな」
 「な、何じゃとぉ」
 「さいわい、今日は風が強いから、火のまわりが早くて、手間がかからんでええわい」
 吉四六さん、すまして、火打ち石をカチカチ打ってやった。

 「ま、ま、待っちくりぃ」
 聞く耳持たぬとばかりに、また、カチカチやった。
 「や、止めちくりぃ。やる、百両やる。山は移さんでもええ」
 吉四六さん、まんまと百両もらって、山を海に運ぶのを止めたと。
 もしもし米ん団子 早う食わな冷ゆるど。

「吉四六さん山を移す」のみんなの声

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焼き払おうとして村人を困らせて百両もらって、なるほどと思いました。 ( 10歳未満 / 男性 )

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