― 新潟県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、ある村の八幡(はちまん)様のお宮(みや)に何百年も経った二本の松の木が並んで立っておったと。
村の衆は、この松を夫婦松(みょうとまつ)と呼んで、注連縄(しめなわ)張ってうやまっていたと。
ある年の春のこと。
この夫婦松が人間の夫婦の姿になって、お伊勢参り(おいせまいり)に出掛けたそうな。
宿屋に泊ったとき、宿帳(やどちょう)には越後(えちご)の国の松蔵(まつぞう)と松代(まつよ)と書いたと。
翌朝になって、宿代を請求(せいきゅう)されると二人は、モジモジしてこう言ったと。
「まことに申し訳がないども、道中で銭(ぜに)を使いすぎて、宿賃(やどちん)の払(はら)いが出来ねえ。ついては、どうか二人を宿賃だけここで使うてくんなせ」
「そうせば、毎日お客さんが立て込んで忙(いそが)しいことだし、二人で働いてくんなせ」
二人は、くるくる、まめまめ働いたと。そうして、宿賃に余(あま)るほど働いてからお礼を言って越後へ帰って行ったと。
その年の秋になって、稲(いね)のとりいれも終った頃、その村の衆がお伊勢参りに行って、同じ宿屋に泊ったと。
そうしたら、宿の主人が宿帳を出して見せ、
「お前さん方(がた)の村に、松蔵と松代という夫婦者(ふうふもん)はいるかいの。実は、春の頃にこの夫婦者がここに泊って、宿賃が払えなかったので働いてもろうたら、ようけえ働いて行ってくれた。余分のこの金、その夫婦者に渡して下さりませんか」
と言うた。
村の衆は顔を見合わせて、
「はて、そんな人、村にいたろうか。おら聞いたことがねえな」
「いや、待てよ、ある、ある。それはきっと八幡様の夫婦松のことだ。松の上の方に、お伊勢様のお札がヒラヒラぶらさがっていたっけが」
「おう、そういえばそうじゃ。そうか、八幡様の松がお伊勢参りをしなすったか」
とわかって、そのお金をあずかって来、お宮のおさいせん箱に入れたそうな。
いつご昔がつっつぁけた。
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むかしあったんですと。 火車猫(かしゃねこ)というのがあったんですと。 火車猫というのは猫が化けたものですが、なんでも、十三年以上生きた猫が火車猫になると、昔から言われています。
とんと昔、よく物忘れをする長吉(ちょうきち)という男がおったげな。 ある日のこと、畠(はたけ)へ行こうと思うて、鍬(くわ)をさがしたがどこにもない。クワクワクワクワというて探していたら、東から烏(からす)がクワクワクワと啼(な)いて飛んでいった。
「松の木のお伊勢参り」のみんなの声
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