なんで人がこばんとかになるの( 10歳未満 )
― 長野県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
昔、あるところに貧乏な爺(じい)と婆(ばあ)がいたと。
歳(とし)とりの晩(ばん)に、小さな座頭(ざとう)どんが戸を叩(たた)き、
「今晩(こんばん)だけ泊めてくろ」
というた。爺が、
「うちは見たとおりの貧乏家(ぶんぼうや)、何のもてなしも出来んけど、それでもよければ泊まってけろ」
というたら、
「外で雪に埋(う)まるより、なんぼええか。ありがたい」
と、礼を言うて家にあがったと。
挿絵:福本隆男
歳越(としこ)しの食べ物がなかったので、カユをもてなした。寝(ね)るときは筵(むしろ)を敷(し)き、その上に寝かせて、また筵を幾枚(いくまい)も掛(か)けてやったと。
元日の朝、小さな座頭どんは早くに起きて、
「若水(わかみず)汲(く)みに行かせてくれろ」
というた。爺は
「あぶないからよしてくれろ」
というて止めたが、
「ぜひ汲ませてくれろ」
と、くりかえし言うので、桶(おけ)を渡(わた)した。
座頭どん、井戸で水を汲んでいたら、足が滑(すべ)って井戸の中に落ちてしまったと。
爺と婆はびっくりして、急(いそ)いで細引(ほそびき)を下げてやり、
「これにつかまってろやぁ」
いうて、二人で引っ張り上げた。そしたら、小さな座頭どん、爺と婆に
「上がるわ上がるわ福の神が上がるわ」
と囃(はや)しながら引き上げてくれろ、というた。
挿絵:福本隆男
爺と婆は、この寒い朝に井戸に落ちて濡(ぬ)れネズミのくせして、何を気楽なこと言うて、思うたが、当の座頭どんが楽しそうなので、三人で、
「上がるわ上がるわ福の神が上がるわ」
と、囃しながら引き上げた。
爺のぼろ着物に着替(きが)えさせ、囲炉裏(いろり)のそばに筵をかけて寝かせておいたと。
しばらくたって、どんな様子かと筵をまくってみると、小さな座頭どんはいなくなって、変わりに、何と、小判が山ほどあった。
貧乏な爺と婆は、いっぺんに福々長者(ふくぶくちょうじゃ)になったと。
隣(とな)りの欲深爺(よくふかじい)がこれを聞いて、自分も山ほどの小判が欲しくなった。
向こうから大きい座頭どんが歩いて来たので
「今晩どうか私の家に泊まってくれろ」
というた。
「いや、正月は我家(わがや)で過(す)ごしたいから急いで帰ります」
というのを、無理やり泊めた。
挿絵:福本隆男
晩ご飯にはご馳走(ちそう)を並べて食べさせ、寝るときには、厚い布団(ふとん)に寝かせた。
次の朝、まだ暗いうちにゆすり起こし、
「さあ、井戸から水を汲んで来てくれろ」
「あぶないからいやだ」
というのを、無理(むり)に桶を持たせた。大きい座頭どんは、井戸のまわりで、別段(べつだん)すべって転ぶふうでもない。難(なん)なく水を汲みそうなので、背中に廻(まわ)って井戸の中に突き落とした。
挿絵:福本隆男
そしてから、用意の細引を下げて取りつかせた。囃子言葉(はやしことば)は何と言うと聞いたら、大きい座頭どん
「上がるわ上がるわ、牛のべたんが上がるわ」
という。欲爺と欲婆と三人で囃し立てて、座頭どん、引き上がって行った。
また家に上げて、いい着物に着替えさせ、いい布団に寝かせた。
欲爺と欲婆、あの座頭どん、まだ小判に変わってないか、まだか、まだか、と気が気でない。待ちきれなくて、少し経ってから布団をめくってみたと。そしたらなんと、山盛(やまも)りの小判ではなく、布団の中には牛の糞(くそ)が、てんこ盛りにあったと。
それっきり。
なんで人がこばんとかになるの( 10歳未満 )
欲深者はどこにでもいますが、西洋では身内、日本ではお隣さんが登場するらしいです。 牛の糞というのも猿かに合戦でも出てきますね。 昔は身近な物だったのですね( 50代 / 女性 )
昔、豊後(ぶんご)の国、今の大分県臼杵市(おおいたけんうすきし)野津町(のつまち)大字野津市(おおあざのついち)というところに、吉四六(きっちょむ)さんという頓智(とんち)にたけた面白い男がおった。
「小座頭大座頭」のみんなの声
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