― 京都府 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭
むかし、むかし、おったと。近江八幡(おおみはちまん)さんにそれはみごとに化(ば)ける狐(きつね)が。
そうして近くの寺には、これもみごとに化ける狸(たぬき)が。
ある日、この狐と狸が道でぱったり出合うなり言うたそうな。
「お前は、たいそううまく化けるそうやな」
「そういうお前もえらい評判(ひょうばん)がええ。どっちが上手(うまい)か、一度、二人で化けくらべをしてみんか」
ということになって、まず、八幡さんの狐が化けることになった。
翌朝、狸は約束通り八幡さんに行ってみよった。
ところが、いっこう化け狐らしいものは見当たらへんのや。
「さては、いっぱい喰(く)わされたんかいなあ」
と思いながら、周囲(あたり)をさがしてみた。
すると、拝殿(はいでん)に供(そな)えた小豆飯(あずきめし)が、まだ炊(た)きたてとみえて、ほかほかしとる。
「こりゃ、わしの大好物(だいこうぶつ)や。御馳走(ごちそう)になろ」
と、手を出しよった。そのとたん、
「はっはっはっ。わしの勝ちやな」
小豆飯は狐に変わり、ゆかいそうに、こう笑いよったと。
狸はくやしくて仕方ない。今度は自分の化ける番やと、狐に、明日朝早うに近くのお寺に来るように言いよった。
次の朝、狐は約束通り行きよった。
ところが、狸の化けたらしい姿はこれまた、どこにも見当たらへんのや。
うろうろしとると、お寺のお地蔵(じぞう)さんの前に、狐の大好きな油揚(あぶらあ)げが厚(あつ)く重ねてある。
「ありゃ、こりゃすごいわい。失敬(しっけい)しよう」
狐が、ついと手を出したところ、とたんに油揚げは消えて、そこに立っているのは狸やった。
狸は、おかしそうに言いよったと。
「お前の眼も、うといの。昨日はお前が勝ったが、今日はわしの勝ちや。どうや」
「う、うん、その通り。やが、これで五分五分」
狐と狸は、このあとも化けくらべしたが、なかなか勝負はつかんかったそうな。
こんでちょっきり ひと昔。
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六月は梅雨(つゆ)の季節だが、昔からあんまり長雨が降ると嫌(きら)われるていうな。 昔、昔、あるところに親父(おやじ)と兄と弟があった。 兄と弟が、夜空を眺(なが)めていると、お星さまがいっぱい出ている。兄は弟に、 「あのお星さまな、あいつ、雨降(ふ)ってくる天の穴だ」というたと。
「化けくらべ」のみんなの声
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