民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 頓知のきく人にまつわる昔話
  3. 彦市どんとタヌキ

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

ひこいちどんとたぬき
『彦市どんとタヌキ』

― 熊本県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、肥後(ひご)の国(くに)、今の熊本の八代(やつしろ)というところに、彦市どんという、おもしろい人がおって、いつも、人をだましたり、からかったりして喜んでおったそうな。
 この彦市どんの家の後ろの山に、タヌキが一ぴきおって、これも、人を化かしたり、だましたりして喜んでおったそうな。
 

 
 ある日のこと、彦市どんが山道を歩いていると、
 「彦市どん、彦市どん」
と呼ぶ者がある。
 「だれか」
と返事すると、
 「おらは、裏山のタヌキだ」
という。
 「なにか、用か」
と聞くと、
 「おまえは、何が一番怖(こわ)い」
と聞いて来た。
 彦市どんは、何をやぶからぼうに、と思ったが、すぐに、ははぁと思って、
 「そうだな、やっぱり、まんじゅうだな。まんじゅうのあんこがこわくて、こわくてたまらん」
と返事をしてやった。
 すると、その晩、彦市どんの家の窓をドンドンたたく者がある。 

 
 彦市どんが窓を開けると、
 「そうれ、こわがれ、こわがれ」
という声がして、何か、どんどん家の中に投げ込まれてきた。
 見ると、おいしそうなまんじゅうだ。
 彦市どんは、昼間のタヌキとの問答(もんどう)を思い出して、
 「これはこわい、これはおそろしい、これはたまらん」
 そう言いながら、ポンポン投げこまれてくるまんじゅうを、次から次へとほおばって、
 ムシャムシャ食うてしまった。 
 タヌキがまんじゅうを投げなくなってしまうと、
 「やれ、こわかった」
 そう言って、お茶を飲んだと。
 この様子を窓から見たタヌキは、彦市どんにだまされたことが分って、くやしくって、くやしくってならない。
 仕返しに、彦市どんの田んぼに石をいっぱい投げ込んだそうな。 

 
 次の朝、田んぼへ行った彦市どん、すこしもおどろかないで、
 「やあ、これはよかった。石ごえ三年といって、これから先三年の間は、この田んぼにはこやしがいらん。たいしたものだ。いや、ありがたい、ありがたい。これが石ではなくて、馬くそだったら、この田はすっかりだめになるところだった」
と、大声で言って喜んで見せたと。
 そうしたら、近くの草むらに隠(かく)れて様子を見ていたタヌキは、またまた、くやしくってならない。
 その晩のうちに、その田んぼの石をきれいにとり出して、かわりに、馬ふんを、いっぱい投げ入れたと。
 彦市どん、いよいよ喜んだそうな。

 そりばっかりのばくりゅうどん。 
 

「彦市どんとタヌキ」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

楽しい

面白かったwww( 10代 / 男性 )

楽しい

面白かったww( 10代 / 女性 )

こんなおはなしも聴いてみませんか?

大歳の火(おおどしのひ)

 昔、ある分限者(ぶげんしゃ)の家で沢山の女中を使っていた。その中に主人のお気に入りの娘(むすめ)が一人いたと。明るくて、まめまめ、よう働く娘(こ)であったと。

この昔話を聴く

ネズミのスモウ

むかしむかし、あるところに長者殿と貧乏な爺さ婆さとが隣あってあったと。両方の家にネズミがいたと。長者殿のネズミはまるまると太り、爺さ婆さのネズミはや…

この昔話を聴く

錦絵の姉さま(にしきえのあねさま)

むかし、あるところに貧乏な婆(ばあ)さまと伜(せがれ)が住んでおったと。伜がその日その日の手間取りに歩いて、わずかな手間賃をもらって暮らしておったと…

この昔話を聴く

現在886話掲載中!