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ひこいちどんとたぬき
『彦市どんとタヌキ』

― 熊本県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、肥後(ひご)の国(くに)、今の熊本の八代(やつしろ)というところに、彦市どんという、おもしろい人がおって、いつも、人をだましたり、からかったりして喜んでおったそうな。
 この彦市どんの家の後ろの山に、タヌキが一ぴきおって、これも、人を化かしたり、だましたりして喜んでおったそうな。
 

 
 ある日のこと、彦市どんが山道を歩いていると、
 「彦市どん、彦市どん」
と呼ぶ者がある。
 「だれか」
と返事すると、
 「おらは、裏山のタヌキだ」
という。
 「なにか、用か」
と聞くと、
 「おまえは、何が一番怖(こわ)い」
と聞いて来た。
 彦市どんは、何をやぶからぼうに、と思ったが、すぐに、ははぁと思って、
 「そうだな、やっぱり、まんじゅうだな。まんじゅうのあんこがこわくて、こわくてたまらん」
と返事をしてやった。
 すると、その晩、彦市どんの家の窓をドンドンたたく者がある。 

 
 彦市どんが窓を開けると、
 「そうれ、こわがれ、こわがれ」
という声がして、何か、どんどん家の中に投げ込まれてきた。
 見ると、おいしそうなまんじゅうだ。
 彦市どんは、昼間のタヌキとの問答(もんどう)を思い出して、
 「これはこわい、これはおそろしい、これはたまらん」
 そう言いながら、ポンポン投げこまれてくるまんじゅうを、次から次へとほおばって、
 ムシャムシャ食うてしまった。 
 タヌキがまんじゅうを投げなくなってしまうと、
 「やれ、こわかった」
 そう言って、お茶を飲んだと。
 この様子を窓から見たタヌキは、彦市どんにだまされたことが分って、くやしくって、くやしくってならない。
 仕返しに、彦市どんの田んぼに石をいっぱい投げ込んだそうな。 

 
 次の朝、田んぼへ行った彦市どん、すこしもおどろかないで、
 「やあ、これはよかった。石ごえ三年といって、これから先三年の間は、この田んぼにはこやしがいらん。たいしたものだ。いや、ありがたい、ありがたい。これが石ではなくて、馬くそだったら、この田はすっかりだめになるところだった」
と、大声で言って喜んで見せたと。
 そうしたら、近くの草むらに隠(かく)れて様子を見ていたタヌキは、またまた、くやしくってならない。
 その晩のうちに、その田んぼの石をきれいにとり出して、かわりに、馬ふんを、いっぱい投げ入れたと。
 彦市どん、いよいよ喜んだそうな。

 そりばっかりのばくりゅうどん。 
 

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