― 高知県 ―
語り 平辻 朝子
再話 浜田 けい
整理 六渡 邦昭
むかし、むかし。
土佐(とさ)の長沢村(ながそうむら)というところに、延右衛門(えんねもん)いう猟師(りょうし)がおったそうな。
延右衛門は村一番のえらもんで、どんな山奥(やまおく)でも夜の夜中を一人でのし歩き、ちっとも恐(こわ)がらんような男じゃったと。
その延右衛門がある日、奥山を歩きよったら、いつにのう獲物(えもの)があって、肩(かた)に担(かつ)げんほど獲(と)れたと。
そこで、もう帰(かえ)ろうと思ったところへ、大男の山父(やまちち)が出てきて、延右衛門の獲物を取(と)っちゃあ食べ、取っちゃあ食べすると。そのうちに獲物が無(の)うなりかけたきに、
「そいつを食うてしもうたら、おらも食うつもりか」
言うて聞くと、にこにこぉっとすると。で、
「おらを食うつもりなら食われちゃりもしようが、その前にスットコトンのトコトコトンというがを踊(おど)っちゃるきに、それまで待っちょれや」
言うちょいて、
「準備(じゅんび)をするきに、あっち向(む)いちょれ」
言うと、にこにこして後(うし)ろ向(む)いたと。
延右衛門は、スットコトンのトコトコトン言うて口太鼓(くちだいこ)を叩(たた)きながら、鉄砲(てっぽう)に鉄弾(くろがねだま)をこめたと。
「さぁ、こっち向いとくれ」
と言いながら、
〽 清水港(しみずみなと)へ二瀬(ふたせ)ができて、
〽 思い切る瀬と切らぬ瀬と、ありゃスットコトンのトコトコトン
言うて踊り出したと。
山父は、それが面白(おもしろ)いて大けな口を開けて、あっはっはっ言うて笑(わら)い出したと。
それを見た延右衛門は、ここじゃと思うて、山父の口ねろうてドーンと鉄弾を撃(う)ちこんだ。
そのとたんに、ごうっと山鳴(やまな)りがして山父がおらんようになったと。
それから一年というもんは延右衛門の家に何の障(さわ)りも無かったけんど、丁度(ちょうど)去年の今日という日が巡(めぐ)ってきたもんじゃきに、何ぞあったらいけんきに、女房(にょうぼう)子供(こども)らを逃(に)がしちょいて、延右衛門ひとり、鉄砲に鉄弾をこめ、関(せき)の小刀(こがたな)を膝(ひざ)の下に敷(し)いて、待ちよったと。
すると、女の声(こえ)がして、
「お頼(たの)み申(もう)しましょ。長沢村の延右衛門さんのお宅(たく)はこっちじゃろうか」
言うもんじゃきに、
「ここじゃ、入りなされ」
言うと、がらりと戸を開けてきれいな女が入ってきた。かと思うと、それが見る間に目の光る恐いもんになって、
「亭主(ていしゅ)の仇(かたき)じゃ」
言いながら、襲(おそ)いかかってきたと。
延右衛門は、その光る眼に関の小刀を、ぐいっと突(つ)き刺(さ)した。
「ギャーッ」
って。
それでもまた襲ってきたので、もうひとつの目を鉄砲で撃ち抜(ぬ)いた。
夜が明けて戸を開けてみると、家のまわりを大蛇(だいじゃ)が七巻(ま)き半巻いて死んじょったと。
むかしまっこう 猿(さる)まっこう
猿のつびゃあ赤い。
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むかしは染物(そめもの)をする店を普通(ふつう)は紺屋(こうや)と呼んだがの、このあたりでは紺屋(くや)と呼んどった。紺屋どんは遠い四国の徳(とく)島からくる藍玉(あいだま)で染物をするのですがの、そのやり方は、藍甕(がめ)に木綿(もめん)のかせ糸を漬(つ)けては引きあげ、キューとしぼってはバタバタとほぐしてやる。
「延右衛門と山父」のみんなの声
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