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はしだてこじょろう
『橋立小女郎』

― 京都府 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
整理 六渡 邦昭

 むかし、丹後(たんご)の国、今の京都府宮津(きょうとふみやづ)の天橋立(あまのはしだて)に「橋立小女郎(はしだてこじょろう)」と呼ばれる白狐(しろぎつね)がおったと。
 この白狐はいつもきれいな女に化けて人間をだましていたので、こんな名前がついたのだと。
 ある日のこと、江尻村(えじりむら)の大平(たいへい)と源十(げんじゅう)という漁師が魚を舟に積んで、宮津の港へと向かっていたんだと。
 
※江尻村・・・現在の京都府宮津市江尻

 
 舟が橋立の千貫松(せんかんまつ)あたりにさしかかったとき、可愛い女の声が二人に聞えた。
 「もし、そこのおふたり、私は旅の娘でございます。どうか宮津まで乗せて行って下され」
 大平も源十も、そんな声を無視して舟をこいでいると、また声がした。
 「どうかお願いです。乗せて下され。私はとても疲れて、もう歩けません」
 あまりにも哀(かな)しそうな声に源十は仕方なく舟を止めて女を乗せてやろうとしたが、陸(おか)にはその姿が見えん。
 「ああ、さては橋立小女郎のしわざか」
 源十は、いまいましく思うて、また舟を出したと。
 
 宮津の港へついた二人が舟底を見ると、運んで来たはずの立派な大鯛(おおだい)が無くなっていた。
 「変だな」
と、よくよく舟底の隅をのぞくと、一匹の白狐がいた。


 「やっぱり、こやつのしわざか」
 源十と大平がカンカンに怒って白狐を捕(とら)えようとしたら、白狐は可愛い小女郎に姿を変えて、
 「漁師さん、もう二度と悪いことはしませんから、どうか許して下さい」
と、哀(あわ)れな声で言う。
 源十と大平は、とりあえず小女郎が大鯛を返すまで捕えておくことにし、縄でしばって舟底に転がしておいたと。
 すると小女郎は、いよいよ悲しそうな声で、
 「縄が体にくいこんで痛くてたまりません。どうか、この縄をほどいて下さい」
と言う。

 普段、気の荒い漁師でも、狐とわかっていながら娘の姿をしてこんな悲しい声で言われたら、どうにも落ち着かん。縄をほどいて、今度は漁籠(ぎょろう)に入れてフタをし、舟を動かそうとしたと。ところが不思議、舟がピクリとも進まん。


 「さては、これも橋立小女郎のせいか。よし、今に見ておれ」
 怒った源十と大平は、陸に上がると落葉だの枯れ葉だの集めて火を燃やし、漁籠の中から小女郎の白い二本の手をひっぱり出して火に炙(あぶ)った。真っ白い小女郎の手足は黒こげになった。

 二人は黒こげの小女郎を籠につめて村に帰った。そして村人の前で籠のフタを開けて、
 「みんな、これが橋立小女郎の丸焼きなった姿じゃ」
と、自慢したと。
 ところが、籠の中から出て来たのは、黒こげになった二本の大根だったと。

  けっちりこ。

「橋立小女郎」のみんなの声

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驚き

ネットで民話の部屋の存在を知り、さっそく活用してみたのですが久々の昔話は面白かったです。昔話特有のどんでん返しがとても良いと思いました。さて白狐はどうなったのでしょうか?そのあとを考える楽しさもある作品だと思います。( 10代 / 女性 )

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