― 長崎県長崎市 ―
語り 井上 瑤
再話 末松 祐一
整理・加筆 六渡 邦昭
長崎(ながさき)では、七月の最後の日曜日、決まって港(みなと)や深堀(ふかぼり)、三重(みえ)などの村々から、ペーロンのドラの音がひびいてきます。
一隻(いっせき)の和船(わせん)に、三、四十名の若者が、手に手にカイを持って乗り込み、勇(いさ)ましいドラの音にあわせて漕(こ)ぐのです。
むかしは「紅(べに)ちりめんをまとい、紫(むらさき)または白のタスキがけした」と古い本には書いてありますが、今は白シャツ、白鉢巻(はちまき)姿で漕ぐのです。
その起こりについては二つの説があります。
一つは、中国の南部の福建省(ふっけんしょう)地方で「屈原(くつげん)」というえらい学者にまつわるお話です。
屈原は戦国時代(せんごくじだい)の楚(そ)の上級役人で懐王(かいおう)に仕(つか)えていましたが、名声(めいせい)をねたむ他の役人からありもしないことを懐王につげ口されて、湖南(こなん)という遠い所に流されてしまいました。
その悲しみのあまりに、泪羅(べきら)という入江(いりえ)に、懐(ふところ)に石を抱(だ)いて身を投げてしまいました。
このとき、地元の人たちが彼を助けようと船を出し、遺体(いたい)が魚に食い荒らされないように鉦(かね)や太鼓(たいこ)を鳴らして捜(さが)したといわれています。結局、遺体を発見することは出来ませんでしたが、毎年その命日(めいにち)に霊(れい)を慰(なぐさ)めるために舟祭りを行い、船競漕(ふねきょうそう)をする風習(ふうしゅう)が始まり、ペーロンの起源(きげん)となったといいます。
いま一つは、台湾(たいわん)の南の方にあるマリンガ島という島にまつわるお話です。
この島は、気候(きこう)が暖(あたた)かで産物(さんぶつ)が豊かだったので、人々はなまけてばかりいました。
ペールインという王様は、この悪い風習をどうにかして改(あらた)めたいと思い、固(かた)く人々を戒(いまし)めましたが効(き)きめはなく、心を痛めていました。
あるとき、天の神様が、王様の夢まくらにお立ちになって、
「王宮(おうきゅう)の前の、仁王像(におうぞう)の顔が赤くなったときは、この島に一大事(いちだいじ)が起こる。そのときは早く船に乗って、島を逃(のが)れよ」
と、お告(つ)げになりました。
王様はおどろいて、早速(さっそく)国中に布告(ふれ)を出して知らせました。でも誰も信じません。
これを聞いた二人のいたずらな若者が、ある夜、その仁王像にのぼって、顔を朱(しゅ)で赤く塗(ぬ)ってしまったのです。
毎朝、仁王の顔を心配気(しんぱいげ)に見あげていた王様は、翌朝(よくあさ)それを見て、
「これは大変」
と、びっくりして、早速、国中に船に乗って逃げるよう知らせませした。が、誰も信じません。やむをえません、王様は、王の一族とわずかの家来(けらい)を船に乗せました。
その船が海岸を離(はな)れるや、天もくずれるような音がして、島は白波(しらなみ)にのまれて、海の底に沈(しず)んでしまいました。
こうして、王たちの逃れ着いたところは、南シナの福州(ふくしゅう)でした。
このマリンガ島を逃れて助かった日を記念して、家来たちは毎年、その日に小船(こぶね)に乗り、
「ペールイン、ペールイン」
と、王様の名を呼び続けて、船を漕ぎまわりました。
「ペーロン」の名は、これが起源であるともいわれています。
長崎で初めてペーロン競漕が行われたのは明暦元年(めいれきがんねん)といわれています。
当時、長崎地方は暴風雨(ぼうふうう)に相次(あいつ)いで襲(おそ)われ、唐(とう)の船が難破(なんぱ)して多くの死者が出ました。
海の神様の気持ちを和(やわ)らげようと、市内在住の唐人(とうじん)が、自国自慢(じこくじまん)のペーロン競漕をしたのが始まりです。
その後、長崎市や西彼杵(にしそのぎ)の海沿(ぞ)いの住民が、それぞれの地区毎に楽しむ伝統行事(でんとうぎょうじ)となりました。
血気盛(けっきさか)んな海の男が漁場(ぎょじょう)の持ち場までかけてカイサバキを競(きそ)うため喧嘩(けんか)が絶(た)えず、
「他流(たりゅう)試合まかりならぬ」
と、昔の年寄りたちはいったそうです。
隣の地区から来ていた嫁(よめ)は親元(おやもと)へ帰していたという話も残っています。
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むかし、ある若者が山道を歩いていると、一羽の鶴(つる)が、わなに足をはさまれて、もがいていた。若者は、 「命あるものをいじめちゃならん」 と、わなをはずしてあげた。鶴は、ハタハタと舞(ま)いあがり、若者の頭の上をなんどもまわって、それから、どこかへ飛び去っていった。
「ペーロンの由来」のみんなの声
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