おじいさん、素敵、かっこいい( 40代 / 女性 )
― 高知県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
これは本当にあった話らしい。
あるところに爺(じい)さんと婆(ばあ)さんとが暮らしていたんだな。
ある夜、この家へ泥棒(どろぼう)が入ろうとして中の様子を窺(うかが)いよったそうな。
ところがこの爺さん、なかなか肝(きも)のすわったお人で、戸の外で泥棒がうろつきよるのを知って、知らんふり。わざと、
「婆さん、もう寝ようや」
と、大声で言って、その実(じつ)、入り口の戸の脇に座りこんで泥棒の様子を窺(うかが)っておった。
そんなこととはつゆにも知らん泥棒は、頃合(ころあ)いを見計らって、入り口の戸の大っきな節穴(ふしあな)から棒を差し込み、それを二度三度かきまわすように動かしてから外へ引き抜いたと。
もしも家の中の人が眠っていなかったら、きっと騒(さわ)ぎたてるにちがいない。そんならそれで逃げてやろう、との思惑(おもわく)だが、家の中はうんでもない、すんでもない。静かなもんだ。
「しめしめ」
と、今度は辛ん張り棒(しんばりぼう)をはずそうとて、その節穴から手をニュッと押し込んだと。
そしたら、それまで泥棒のすることをニンマリして見ておった爺さん、
「そら来た」
とばかりに、その手をつかまえたと。
びっくりした泥棒が、何とか手を引き抜こうともがいたが、どうにも引き抜けん。
いや、その力の強いこと、強いこと。
戸板1枚はさんで、内では爺さんがしてやったりという得意な顔、外では泥棒、必死な顔だと。
そうこうするうちに、爺さんが、
「婆さんや、それを持ってきなさい」
と、落ち着き払った声でいう。
「短いのかね、長いのかね」
婆さんは尋(たず)ねている。
さあ、外の泥棒はあわてた。
<短いのとは短刀か出刃包丁(でばぼうちょう)か。長いのとは大刀(だいとう)かもしれん。俺の腕(うで)を斬(き)るつもりだな、こりゃぁおおごとだぁ>
「ま、待ってくれ、助けてくれっ、許してくれぇ」
と、泣きごとを言って騒(さわ)いだが、爺さんはつかんだ力をゆるめてはくれん。それどころか、
「長いのを持ってきなさい」
「はいはい、長いのですね」
と、いよいよぶっそうなことを言う。
泥棒は、今斬られるか、今斬られるかと冷や汗を流しよった。
ところが爺さんは、
「これ泥棒さん、お前もよくよくの事情があって他人の物を盗(ぬす)もうとしなさっているのだろうが、例えどんな事情があっても盗むことはよくない。これから心をいれかえて、まじめに働くのなら、これを持って帰りなさい」
こういうて、泥棒の手にひもに通した穴開き銭(せん)の束を握(にぎ)らせて離してやったと。
短いのとは、穴開き銭の短い束。長いのとは穴開き銭の長い束のことだったと。
こんな話。
泥棒に追い銭と笑うお人もおるがの、なんのそれで人間一人、生まれ変わることができたなら、たいしたもんじゃないか。
むかしまっこう 猿まっこう。
おじいさん、素敵、かっこいい( 40代 / 女性 )
むかし、ある年の大晦日のこと。吉四六さんの村では、借金取りが掛売りの貸金を集金しに、家々をまわっておった。家の中からそれを見ていた吉四六さんの女房「貸すほどお金があるっちゅうのも大変だねえ」
むかしは染物(そめもの)をする店を普通(ふつう)は紺屋(こうや)と呼んだがの、このあたりでは紺屋(くや)と呼んどった。紺屋どんは遠い四国の徳(とく)島からくる藍玉(あいだま)で染物をするのですがの、そのやり方は、藍甕(がめ)に木綿(もめん)のかせ糸を漬(つ)けては引きあげ、キューとしぼってはバタバタとほぐしてやる。
むかし、高知県土佐の幡多の中村に、泰作さんというて、そりゃひょうきんな男がおったそうな。ある日ある時のことよ。泰作さんは山へ行ったそうな。ところが家を出るときに、だいぶあわてちょったけん弁当を忘れてきたと。
「短いのかね 長いのかね」のみんなの声
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