― 秋田県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところに薪(たきぎ)が少なくて大層(たいそう)難儀(なんぎ)している村があったと。
ある冬の夕暮れどき、その村へ一人のみすぼらしい坊さまがやってきて、家々の門口(かどぐち)に立った。
戸をホトホトと叩いては一夜の宿を頼むのだが、どの家からも申し訳なさそうに断られたと。
坊さまは、村で一番大きな家の門口に立った。
「行き暮れて難儀いたしております。一晩泊めてもらえますまいか」
というと、家の主人(あるじ)は、
「うちは狭いから泊めらんねえ」
と、にべもなく断った。
家の中から芋煮(いもに)のいい匂いがしてきて、坊さまの腹が、クーッと鳴った。
主人(あるじ)は舌うちをして、
「今煮(に)ている芋は、石芋といってな、なかなか煮えない芋だで。それに固くて固くて、食えたしろものではねぇ」
こういうと、坊さまの鼻先で戸をピシャンと閉めてしまった。戸の向こうから、
「誰だったね」
「ふん。ただの乞食坊主(こじきぼうず)だ」
という話し声が聞こえたと。
坊さまは、静かにその場を立ち去った。
村のはずれに、一軒のあばら屋があった。
坊さまは、その家の戸を、ホトホト、ホトホト、と叩いた。
婆(ばあ)さまが出てきて、坊さまを見ると、
「寒いとこ御苦労(ごくろう)さんだなし。うまくもねぇども、今、雑炊(ぞうすい)が煮えたとこだんし。どうぞあがってくだんし」
と、気持ち良く囲炉裏端(いろりばた)に迎えて、あたたかい雑炊をごちそうしてくれたと。
旅の話をあれこれと話しているうちに寒くなった。囲炉裏(いろり)をみると、火はチロッ、チロッと細く燃えているだけだった。坊さまが、
「婆さま、もう少しマキをくべて下さらんか」
というと、婆さまは、すまなさげに、
「寒いめさせて申し訳無(ね)。このあたりは山が遠くて、どこの家でも薪に難儀してるんし。うちの薪も、あの土間にあるのを使ってしまえば、あとは春まで燃やすものが無くなるんし」
と、こう言いながらも、坊さまが温くなるように火にマキをくべてくれたと。
次の朝、坊さまは心から礼を言って立ち去って行った。行きしなに、
「婆さま、そこの荒れ地な、鍬(くわ)を入れなされ」
というて、杖(つえ)で指し示したと。
坊さまを見送った婆さまは、
「そだな、少しでも畑を広げておくか」
というて、坊さまが指し示した場所に鍬を打ちおろした。
が、いくら掘りおこしても、ポロポロと黒い土が出るばかり。
「これだば畑にむかねぇなぁ。あの坊さまが指し示した所なんだが」
婆さまは、鍬を置いて、ひと休みしたと。
ワラや木っ端(こっぱ)を拾うて焚き火(たきび)を始めたら、そのポロポロした黒い土が燃えて、火はいつまでも勢いがいい。
「あれや、土が燃える。燃える土だ」
と、喜んだと。
挿絵:福本隆男
そののち、婆さまの家では、どんなに寒い冬でも、火をゴンゴン燃やして、あずましく暮らしたと。
芋を煮ていた大きな家では、芋を煮るたびに、芋が本当の石芋になったと。
旅の坊さまは弘法大師(こうぼうだいし)さまであったと。
とっぴんからりのぷう。
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昔、あるところにひとりの婆(ばあ)さんがあった。婆さんは、お年貢(ねんぐ)の頃に上納(じょうのう)する米の計量(はかり)をちょろまかすのがうまくて、役人は困りはてていたと。
「坊さまの宿乞い」のみんなの声
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