― 鹿児島県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、竜宮浄土の乙姫さまが病気になられて、いっこうに治らないんだと。神様に見てもらったら、「猿の生き肝を食えばよくなる」と言われた。
「ほうせば、だれが猿を連れて来るがら」
「そら、亀がいい」
そういうことになっての、亀が猿を連れて来ることになったと。
亀が浜辺に泳ぎ着いてみれば、猿は浜の松の木に登っていたと。
「猿どん、猿どん、いつも木にばかりつかまっていねえで、たまには竜宮浄土へ行ってみたあねえか」
「行ってみたいども、おら泳ぐことがならん
「ほうせば、おらが連れてってやるだ」
ほうして猿は、亀の背中に乗って、竜宮浄土へ行った。
竜宮浄土では、りっぱな部屋に案内され、いい着物(べべ)着せてもろて、たくさんのごっつおだったと。その上、魚の踊りまで見せてもろうた猿は、すっかり気持ちよくなっての、喜んで遊んでいた。
ところが、あんまり食べすぎて、便所へ行きたくなっての、門のところまで行ったらば、門番のクラゲが話しているんだと。
「猿のバカが、手前の生き肝を取られるのも知らんと、いい気持ちになって喜んでいらや」
これを聞いた猿は、赤い顔を青くして驚いた。
『おらの生き肝を取るだと、こらあ大事(おおごと)だ』と思って亀の処へ飛んで行った。
「亀どん、俺らは大変なことをした。ここ来る時に、大事な生き肝を木の上に干したまま来てしもた。ところが、どうも雨が降りそうだ。生き肝が腐るんでねえかと、俺ら、それが心配で」
「なに、生き肝を木の上に干して来たと。そりゃ大事だ。俺らの背中に乗せて連れてってやるから、木から取り込んで来いや」
「そうしてもらえればありがたい」
そう言って、猿は、また、亀の背中に乗って元の浜辺へ、生き肝を取り込みに戻ったと。
ほうして、猿はするするっと木に登ったまんま、下へおりてこないんだと。
「おおい、猿どん、はや、生き肝を取り込んで来いや」
「何言うているや、俺ら生き肝なんか、ここに干してねえ。生き肝ちゅうは、出したり入れたりしられるもんでねえよ。生き肝を取られれば死ぬに決まってら、そんげな所へ、おら、え-いがんど」
と、持っていた石を、どんどん亀にぶっつけた。
「なに、いて、いてて、誰がおめえの生き肝を取ると言うたや」
「クラゲがそう言うたや」
こうなると亀はどうすることも出来ない。独りで竜宮浄土へ帰って行った。
ほうして、クラゲは、猿に聞かせた罰で骨を抜かれて終ったと。
クラゲに骨が無くなったのは、これからだそうな。
そいぎぃの昔こっこ。
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むかし、ひとりの馬方(うまかた)が荷馬車をひいて、夕暮(ぐ)れ時の山道を村の方へ帰っていたと。 「いま時分は、ここいらへんは狸(たぬき)が化けて出るって聴(き)いとったんじゃが……」 と、用心しながら歩いていたら、案(あん)の定(じょう)、「もし、もし」と、優(やさ)しい声がかかった。
「猿の生き肝」のみんなの声
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