民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 大きな話・法螺話にまつわる昔話
  3. 海のひろさ

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

うみのひろさ
『海のひろさ』

― 埼玉県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに、一日に千里(せんり)遠くへ飛べる鳥があったと。
 あるとき、この鳥が海辺の木に止まって、
 「海の岸づたいなら遠くへ飛んだことはあるけれど、海の向こうへは飛んだことがないなあ。どれくらい広いのか、いっぺん行ってみるか」
と言うて、海の向こうへ飛んで行ったと。
 最初の日、飛んで飛んで飛んでいたら、日が暮れた。下を見たら、うまい具合に枯木(かれき)があった。
 「丁度(ちょうど)いい、あれで休もう」
と言うて、枯木に止まって羽休め(はねやすめ)した。 

 
 夜が明けて、また飛んだと。
 飛んで飛んで飛んでいたら日が暮れた。下を見たら、うまい具合に、また枯れ木があった。
 「丁度いい、あれで休もう」
と言うて、枯れ木に止まって羽休めした。 
 そしたら、海の中で海老(えび)が、
 「鳥のやつめ、昨日は俺の右のヒゲに止まったが、今夜は左のヒゲに止まっとるわい」
と言うて笑い、鳥が眠っている間(ま)にこっそり廻れ右をしたと。
 そうとは知らない鳥は、夜が明けたらまだ飛んで、日が暮れたら丁度うまい具合にある枯木に止まり、
 (本当は、海老の、今度は右のヒゲなんだけどね)
 次の朝飛んだら、日暮れ頃になって、ようやく岸に着いた。そこは鳥が最初に飛びたった所だった。鳥は、
 「海の向こうをぐるっとまわってきたわけだ。三泊四日で地球をひとまわり出来た」
と言うて喜んだと。


 それを聴いた海老は、
 「アハ、馬鹿(ばか)な鳥。途中(とちゅう)から引き返したのをまだ気づいとらん」
と言うて笑うた。 
 そして、
 「しかし何だ。海がどんくらい広いのか俺も知らんなあ。いっぺん行ってみるか」
と言うて、ピョンピョンはねて行ったと。
 はねてはねてはねて行ったら、日が暮れた。うまい具合に岩穴(いわあな)があったので中に入って泊(と)まったと。
 夜が明けたので、またピョンピョンはねて行ったら、日が暮れた。またうまい具合に岩穴があったので、中に入って泊まったと。
 そしたら、海の中で亀(かめ)が、
 「海老のやつめ、昨日は俺の右の鼻の穴に泊まったが、今夜は左の鼻の穴に泊まっとるわい」
というて鼻で笑うた。
 そのひょうしに海老のヒゲがゆれて、亀、大っきなクシャミをした。海老は飛ばされて、あっというまに元の所へ戻ったと。


 寝ぼけまなこで目が覚めた海老は、
 「ありゃ、いつの間にか元の所へ着いとる。してみると、海は二泊三日の広さか」
と言うた。 
 それを聴いた亀は、
 「アハ、馬鹿な海老。俺のクシャミで飛ばされて戻ったのを、まだ気づいとらん」
と言うて笑うた。そして、
 「しかし何だ、海がどんくらい広いのか、俺も知らんなあ。いっぺん行ってみるか」
と言うて、出発場所を決めに砂浜へ這(は)いあがったと。
 ゴソリゴソリ這っていたら、漁師(りょうし)の子供が遊びに来て、その亀、ひょいと拾うて家に帰ったと。

 おしまい チャンチャン。

「海のひろさ」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

楽しい

こども、アハハと笑って読めました。( 30代 / 女性 )

こんなおはなしも聴いてみませんか?

三日月の滝(みかづきのたき)

昔、昔、今からおよそ千年もの昔のこと。京の都に、清原朝臣正高(きよはらのあそんまさたか)という横笛(よこぶえ)の名人がおった。正高は、笛の音色(ねい…

この昔話を聴く

山梨とり(やまなしとり)

 むかし、あるどころにおっ母(か)さんと兄弟三人があったと。  おっ母さんが病気で寝(ね)ていて、山梨が食いたいと言ったと。

この昔話を聴く

歌の三郎と笛の三郎(うたのさぶろうとふえのさぶろう)

むかし、むかし、あるところに歌の三郎と笛の三郎という若者が隣合って住んでいた。歌の三郎は歌が上手で、笛の三郎は横笛が上手だった。二人は、もっと広い世界で芸を試してみたくなった。歌試し、笛試しの旅へ連れだって出かけたと。

この昔話を聴く

現在886話掲載中!