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りゅうじんさまのでんじゅ
『竜神様の伝授』

― 岩手県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭

 むかし、むかし、あるところにひとりの男があったと。
 男は畑仕事をするでもなく、毎日、毎日、浜辺(はまべ)に腰(こし)を下ろしては日がな一日海を眺(なが)めていたと。
 村人の誰(だれ)からも、あれは怠(なま)け者だの、ばか者だのといわれておった。

 ある日のこと、いつものとおり浜辺で海を眺めていたら、水の中から竜神(りゅうじん)様が出て来た。
 「これ、そんげに驚(おどろ)かいでもええ。お前(め)にな、これをやろうと思うて来たんじゃ」
 竜神様は小脇(わき)に抱(かか)えている瓶(かめ)をポンポンと叩(たた)いた。


 「この瓶には万病に効(き)く霊水(れいすい)が入ってある。しかも、瓶が壊(こわ)れない限(かぎ)り、また、種水(たねみず)が少しでも残っている限り、じきに元の量になる宝(たから)の瓶じゃぞ。水は飲んで良し、塗(ぬ)って良しの霊水じゃ。どうじゃ、ええもんじゃろう。
 お前がそこに座(すわ)って、毎日、毎日、医者のいないことを憂(うれ)いて、竜神様なんとかして下さいと願っていたろ。その願いを叶(かな)えてやるぞ。
 これからは、もうそこに座っとらんで、医者に代って、お前が人々を救え」
と、いいなさったと。男がおそるおそるその瓶を受けとると、竜神様は、よしよし、とうなずいて海の中へ戻(もど)って行(ゆ)かしゃったと。

 男はその瓶を持ち帰り、押(お)し入れの奥(おく)深くにしまった。病人のところへは小っさい瓶に汲(く)み分けて運び、飲ましたり塗ったりしてやったと。


 村には、病人、怪我(けが)人がたくさんいたので男は、日に幾(いく)度も押し入れにもぐった。そしたら、女房(にょうぼう)があやしんだと。男が出掛(か)けたすきに押し入れをのぞいたら、隅に見たこともない瓶が置いてあった。
 「あれ、これは何だべ」
 不思議に思って蓋(ふた)をとりのけて中をのぞいたら、水の中から女が女房を見つめていた。
 「あれゃ、馬鹿亭主(ばかていしゅ)めはこの女の顔を見べぇとて、ああしてしょっちゅう押し入れにもぐっていたんだな。エー悔(くや)しい」
 女房、腹(はら)ァ立てて、瓶をたないで外へぶん投げた。瓶は石に当って割(わ)れたと。
 男が霊水を汲みに戻って押し入れにもぐったら、瓶が無い。女房を呼んで、
 「ここに入れといた瓶、知らんか」
と聞いたら、女房は、
 「フン、あんなもの」
というて、外を指差した。瓶が砕(くだ)けてあった。
 「お前(め)が割ったのか」
 女房はそれには答えずに、亭主を恐(こわ)い顔でにらむんだと。


 「お前がやったんだな。なしてあの瓶を割った。あの中に入ってる水は竜神様から授(さず)かった霊水で、それで人の病気や怪我を治していたのに。何(な)してだ」
 「だ、だって、瓶の中に女がいた……おらをにらんでいた……」
 「馬鹿なことをいうな。それは、水にお前の顔が映(うつ)っていただけだ」
 男は女房の浅はかさを嘆(なげ)いて、瓶の欠片(かけら)を拾い集め、池のほとりに埋(う)めたと。
 次の日から男はまた、浜辺で腰かけ、ひざを抱えて海の沖を眺めていたと。

 幾日かして、また、竜神様が現れて、
 「お前は、どうしてここに座っているのか」
といわれた。男は女房にあの瓶を割られたことや、その欠片を拾い集めて池のほとりに埋めたことを話したと。そしたら竜神様は、
 「そんなら、その瓶を埋めたところへ行ってみなさい。お前が見たことのない草が生えているから、それを採(と)って蔭干(かげぼ)ししてから揉草(もみぐさ)にして、お前はまた、人の病気を治せ」
といい、その方法を詳(くわ)しく教えてくれなさったと。

 
 男は竜神様にお詫(わ)びとお礼を言い、池のほとりへ行ってみたら、本当に見たことのない草が生えていた。
 臭(にお)いがきついのでこれだと思い、その草を採って、竜神様から伝授(でんじゅ)されたとおりにしたら、再び人の病気を治すことができたと。
 それが今の灸(きゅう)の始まりで、その草は蓬(よもぎ)であったと。
 
 いんつこもんつこさかえた。

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