― 石川県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭
とんと昔、あるところに爺(じ)さまと婆(ば)さまとおったと。
ある日のこと、爺さまが山へ柴刈(しばか)りにいって昼飯(ひるめし)を食べようとしたら、にぎり飯(めし)がコロコロコロッと転がって、穴の中にストンと落ちてしもうた。
「こりゃぁ、しもうた」
仕方なく木の根っこに腰掛(こしか)けて休んでいたら、それはそれは美しい姉(あね)さまが現(あらわ)れた。
姉さまは、
「ただ今はごちそうさまでした。お礼に私の家にご案内(あんない)しますので、目をつぶって背負(おぶ)さりなされ」
というた。
爺さまが言う通りにすると、間もなく、
「目を開けてもいいですよ」
という。爺さまが目を開けると、いつのまにか広い立派な御殿(ごてん)の中にいたと。目をまんまるにして見とれていると、姉さまたちが十人も二十人も出て来て、
テンやイタチやネコさえおらにゃぁ
ネズミの世の中
チャンカチャンカ チャンカチャンカ
と唄(うた)い踊(おど)りながら餅搗(もちつ)きを始めた。爺さまは、
「姉さまたちはネズミだったか」
と思うたが、それでも餅(もち)は食えるし、踊(おど)りは見られるし、ええ気分だったと。
そのうち腹もふくれたので、
「おら、いっぱいごちそうになった。婆さまも待っとることだから、そろそろ家に帰らねば」
というと、さっきの姉さまが箱を一つお土産(みやげ)にくれて、
「また、目をつぶって私に背負(おぶ)さりなされ」
というた。
言う通りにして、間もなく下ろしてもらったら、そこは元の木の根っこのところだった。
爺さまは家に帰り、婆さまと箱を開けてみたら、中にはお金がぎっしりと詰(つ)まっていた。
爺さまと婆さまが急に金持ちになったので、隣(となり)の爺さが不思議(ふしぎ)がってやってきた。
「お前(め)たち、どうして金持ちになったんじゃ。わしにも教えて呉(く)ろ」
爺さまは、 「山に柴刈りに行ったら穴ににぎり飯(めし)を落としてな、これこれこんな訳だ。」
と教えてやったと。
さあ、これを聞いた隣の爺さは、礼も言わないで、あたふたと家に戻って、婆(ばあ)さににぎり飯をこしらえさせ、早速(さっそく)山へ行った。
「おお、ここがその穴だな」
というて、にぎり飯を穴の中にポンポン放り投げた。
「これでよし」
というて、木の根っこに腰掛けて待つほどに、美しい姉さまが現(あらわ)れて、
「ただ今はごちそうさま・・・」
「いいんじゃ。わかっとる」
隣の爺さは、姉さまに終(しま)いまで言わさないで、勝手(かって)に背負(おぶ)さって目をつぶった。
「さあ、目を開けてもいいですよ」
と言われて目を開けると、聞いた通りの立派な御殿(ごてん)の中だった。姉さまたちが十人も二十人も出て来て
テンやイタチやネコさえおらにゃぁ
ネズミの世の中
チャンカチャンカ チャンカチャンカ
と唄い踊りながら、餅搗(もちつ)きを始めた。
隣の爺さは、
「そうか、姉さまたちはネズミか。ネズミがこんな御殿に住んでいるとはなまいきなこんだ。ようし、ひとつおどかしてこの御殿から追い出してやれ。そのあとでここにある財宝(ざいほう)を残らずもろうていけばええ。そうせば、あの爺さまよりわしの方が金持ちになれる」
と思案(しあん)して、大きな声で
「ニャオーン」
と叫(さけ)んだ。
そのとたんに周囲(あたり)は真っ暗になった。すぐにガラガラガラッと御殿が崩(くず)れだして、天井が落ちた。隣の爺さは埋もれてしもうた。
さあ、隣の爺さは困った。財宝を集めるどころでない。真っ暗な中で、両手であっち堀り、こちい掘りして、身体(からだ)じゅう血だらけになって、ようやく穴の外に這(は)い出たと。
その頃、家では婆さが屋根の上にのぼって、爺さの帰りを今か今かと待っておった。
そうしたら、遠くの方から爺さがやって来た。何やら、赤っぽくて、よろけているようだ。
「ほう、ほう。うちの爺さは赤い着物(べべ)を来て帰ってきた。それに、あのよろけ具合(ぐあい)。さぞかしたんと土産(みやげ)をもろうて来たにちがいない」
隣の婆さは、大喜びして、屋根から下りると、
「もう、こんな古いのはいらん」
いうて、家じゅうの古着(ふるぎ)を、全部(ぜんぶ)燃(も)やしてしもうた。
ところが、家に帰ってきた爺さは、赤い着物(べべ)ではなく血だらけで真っ赤になった爺さだった。よろけていたのは、息も絶(た)え絶えだったからなんだと。
なんば味噌(みそ)、あえてくったら辛(から)かった。
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「ネズミ浄土」のみんなの声
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