民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 世間話にまつわる昔話
  3. 嫁と姑女

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

よめとしゅうとめ
『嫁と姑女』

― 茨城県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔昔、あるところに八百屋(やおや)があった。
 八百屋は魚屋の娘を嫁に貰(もろ)うたと。
 嫁はこまめに働くし、威勢はいいし、姑女さんも大層嬉(よろこ)んでおった。
 月日が経って、嫁はこの家にすっかり馴(な)れた。そしたら、
 「おっかさん、今日はボタ餅こさえる」
 「おっかさん、今日は五目飯たく」
 「おっかさん、今日鍋物にしよう」
という具合で、おまけに食っちゃ寝するようなった。
 贅沢(ぜいたく)で我儘(わがまま)で怠けるようになった嫁を、どういうて諌(いさ)めたらいいか、姑女さん、頭を悩ましたと。 

 
 十日も二十日も三十日も、考えて、考えて、考えぬいて、八百屋らしく青物尽(あおものづく)しで意見することにしたと。
 どういう文句にするか、それからまた、十日も二十日も三十日も考えて、ようやく出来た。姑女さん、嫁に、
 「これ嫁菜(よめな)、ここへ黄粉(きなこ)。浅葱(あさつき)からうとうととしてからに。

 なぜ豆々(まめまめ)蓮根(れんこん)精根(せいこん)を出しやらぬ。なんぼ馬鹿でも牛蒡(ごんぼ)でも、手さえかければ梅(うめ)くなる。これ嫁菜、そんな目ぇして大蒜(にんにく)しと韮(にら)むのは生姜(しょうが)恐ろしいぞや。そんなことでは隠元(いんげん)」
というた。言うたところが嫁は、フーンとせせら笑(わろ)うて、すぐに、
 「おっかさん、鯒(こち)へ鯉(こい)とて針魚(さより)てみれば、赤い火魚(かながしら)みてよな頭をふりたてて鰯(いわし)やんす。なんぼ馬鹿でもワカシでも、嫁は鰤(ぶり)の出世魚(※)、いつかはおっかさんになるわいな。もちいと鯖(さば)けて泥鰌(どじょう)」
と魚尽(うおづく)しで切り返した。 

 
 これには姑女さん、すっかり感心してしもうた。
 「俺が三十日もかかってこさえた文句を、お前(め)は、あっという間にこさえてしもうた。とてもかなわぬ。降参だ。これより杓子渡(しゃくしわた)しをする」
 こんどは嫁がびっくりした。杓子渡し、いうたら、台所をまかすということだ。つまり家内(いえうち)のことはすべて嫁が取り仕切り、姑女さんは隠居するということだ。
 説教されたり、言い返したり、どころの騒ぎでない。

 「あの、おっかさん。それではさばさばし過ぎだ。俺では分(わか)かんねことばっかしで」
 「なに、お前が俺よりどれほど賢いか判ったからには、なんにも心配しね。さっ、この杓子(しゃくし)、受けとってくれ」
 嫁は杓子渡されたら、我儘も贅沢も怠けもしなくなったと。姑女さんを大層立てるようになり、上手に家を盛りたてたと。

 いちごさけた。


※ 出世魚:ブリ科では、ワカシ、イナダ、ボラ、スズキ、ブリと成長によって名が変わる魚。

「嫁と姑女」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

感動

「老いては子にしたがえ」の上を行く「老いては子に任せよ」。  昔からちゃんと民話にあるのかとオドロキです。権力者ほど、今でもこれが出来ない。  若い人たちが苦労するのは少子高齢化のためではなく「まだまだ頑張るのが社会のためだ」とうそぶいてして引退しない年寄りのせいなんですね。  本当に民話は教訓の宝箱です。( 70代 / 男性 )

こんなおはなしも聴いてみませんか?

河童の手紙(かっぱのてがみ)

 むかし、あるとことに大きな沼(ぬま)があった。  沼の東のはずれに、兄と弟が隣(とな)りあって暮(く)らしてあったと。  兄は、沼のまわりの繁(しげ)り過(す)ぎた木の枝(えだ)を払(はら)ったり…

この昔話を聴く

ネズミ浄土(ねずみじょうど)

とんと昔、あるところに爺(じ)さまと婆(ば)さまとおったと。ある日のこと、爺さまが山へ柴刈(しばか)りにいって昼飯(ひるめし)を食べようとしたら、に…

この昔話を聴く

貧乏の神(びんぼうのかみ)

 むがし、父(てで)と母(あば)と子供(こども)の三人居(い)てあったわけだ。  貧乏(びんぼう)で貧乏で、正月来たて食う物なも無(な)ぁふでナ、銭(じぇん)コはだけて、  「今夜年取りだんて、米コ買って来て、飯(まま)炊(た)いて食うど」 どで、その子さ、米買わせに行かせた訳(わけ)だ。

この昔話を聴く

現在886話掲載中!