あらぶる神様もいるのね。( 50代 / 女性 )
― 北海道 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、ほうそうの神(かみ)が人の世界に降(お)りて来て歩きまわっているとき、ふと美(うつく)しい村の娘(むすめ)を目にとめられて、愛(あい)されたそうな。
それから月満(み)ちて生まれたのがスカンデだ。
挿絵:福本隆男
スカンデは、成長(せいちょう)するにつれて光り輝(かが)く若者(わかもの)になった。暗(くら)い夜でも、スカンデが道をゆくと、まるで水に映(うつ)る月影(つきかげ)のように、あたりがきらきらと明るいのだと。
けれどもスカンデはわがままで、どうにも手に負(お)えないところがあったから、村中のもてあまし者だったと。
ある時は、スカンデはアイヌの酋長(しゅうちょう)が持っている宝物(たからもの)に目をつけると、どうしても欲(ほ)しくてたまらなくなった。言葉(ことば)たくみに手下(てした)をそそのかし、酋長を殺(ころ)させて、とうとうその宝を我物(わがもの)にしてしまったと。
酋長を殺された部族(ぶぞく)が怒(おこ)るまいことか。一族のうらみは烈(はげ)しくつのって、スカンデは殺された。けれども、神の子だから、刀(かたな)で切(き)られようが、やりで突(つ)かれようが、すぐに生き返(かえ)ってきて、どうにもならない。
あるとき、スカンデが川で魚(さかな)をとっているところを、後ろからおそわれて、またも打(う)ち殺された。
「今度こそ、生き返らせまいぞ」
「死体(したい)は切って、離(はな)れ離(ばな)れにしておけ」
スカンデのあごは引きさかれ、上(うわ)あごは川べりの立木(たちぎ)をたわめて、その先にしばりつけたから、木の梢(こずえ)にはね上がった。下あごは石をくくりつけて、川底(かわぞこ)深(ふか)く沈(しず)めてしまった。
息子の死を知(し)ったほうそうの神は怒ったのなんの。
スカンデの身体(からだ)を元の通りに合わせ、下あごはどこにも見つからなかったので、木の切れ端(はし)をくっつけて間にあわせたと。
五体(ごたい)が揃(そろ)うと、スカンデは「ふう」と息(いき)を吹き返し、むくむくと起(お)き上がったと。すぐさま天にいる父神の元に行き、
「こんどこそ、ひどい目にあいました。父上のお力で是非(ぜひ)ともほうそうを流行(はや)らせて下さい。アイヌどころか、世界中の人間を皆殺(みなごろ)しにして頂きたいのです」
と頼みこんだと。
この話をそっと聞いて、驚(おどろ)いたのは天の神々(かみがみ)だ。
「あのあばれ者をおとなしくさせるには、どうしたもんでしょう」
「それは何と言っても、嫁(よめ)を持たせるのが一番(いちばん)です」
「どこかにいい娘はいませんかね。スカンデが一目ぼれするような娘は」
ひたいを寄せて相談(そんだん)した末、これには、明(あ)けの明星(みょうじょう)が一番と決(き)まったと。
スカンデは妻(つま)を迎(むか)えて、すっかり落(お)ちついたと。
けれども、ときにはおこり病のように昔のくせが出るので、そんなときには、妻はつきっきりで夫(おっと)をなぐさめなくてはならない。
明けの明星が空に姿(すがた)を見せないとき、アイヌの人たちは、
「やさしい明星(あけぼし)が、また家にいてスカンデに言いきかせていなさるのだ」
と、話あうのだそうな。
おしまい。
あらぶる神様もいるのね。( 50代 / 女性 )
むかし、あるところに大きな酒屋があったと。 酒屋には一人娘(むすめ)がいて、顔は目も覚めるほどの美しさなのに、手足は蛇(へび)そっくりの肌で蛇鱗(うろこ)がびっしり着いてあったと。
「スカンデと明けの明星」のみんなの声
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