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もんじゃのきち
『もんじゃの吉』

― 岩手県(紫波郡) ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔、あったと。
 もんじゃ(茂沢)の吉は長者どのの家で嫁こを探しているということを聞いた。
 野っ原の方に歩いて行くと、狐が化けくらべをしているのに出会った。
 「やぁ、狐どの、狐どの。お前たちは何をしている」
と声をかけた。狐はびっくりして、
 「誰れかと思ったら、吉さんか」
というた。もんじゃの吉は、
 「ときに、長者どのでは嫁コをさがしているっちゅうから、お前(め)たちの仲間で化けてくれんか」
と頼んだ。狐たちは、
 「油揚(あぶらあ)げと小豆飯(あずきめし)を持ってくればぞうさもねえこった」
というた。
 

 
もんじゃの吉挿絵:福本隆男
 そこで、もんじゃの吉は、長者どのさ行って嫁コを世話する話をまとめたと。口きき料にたんまりお礼をもらったと。
 そして、油揚げと小豆飯を買(こ)うて、狐のところへ行った。
 「いついっかに、人数は三十人ばかりと馬ひと手綱(たずな)七頭の嫁取りに化けてけろ」
 「あい、わかった」
と約束が出来たと。

 
 いよいよ嫁取りの日。
 長者どのではすっかり用意をととのえて待っていたが、時刻になってもなかなか嫁こが見えないので待ちあぐんでいたと。
 夜まになって、ようやく野っ原の方に提灯(ちょうちん)が三十ばかりちらちら見えたと。
 ほどなくして、仲人の吉が先に立って、化粧馬(けしょううま)だの、箪笥(たんす)長持(ながもち)からいろいろな道具(どうぐ)担(かつ)ぎだの従(したが)えて、ざんぐぶんぐと嫁取りの行列が長者どのの屋敷さやってきた。
 屋敷門(やしきもん)の前で、送りの言葉やら迎えの言葉がかわされ、もんじゃの吉は提灯を一人一人から受け取って、縁側の天井にずらりと釣るした。
 祝言がはじまり、大座敷(おおざしき)では、ご馳走酒盛りだと。
 呑め歌え踊れと盛り上がって、やがて祝儀事(しゅうぎごと)も終りになり、仲人の吉は帰り、お客人(きゃくじん)たちも帰る者は帰り、泊まる者は泊まったと。

 
 次の朝になって、長者どのが縁側の戸を開けると、天井から頭にぶつかるものがあった。
 「痛て」
というて見あげたら、馬の骨が三十もぶら下がっていた。

 はてな、と思ってその辺(あた)りを見ると、縁側の板の上に狐の足跡がついている。いよいよけげんに思って家内(いえうち)の者(もの)を起こして調べさせたと。
 そしたらなんと、家の中(なか)じゅう狐の足形(あしがた)だらけだ。あわてて座敷に行ってみたら、泊まったはずのお客人も一人も居なくなっていたと。
 もしかしたら、と思って、嫁コの床(とこ)を見ると、これまた様子が変だ。夜着(よぎ)をはぐって見たら、なんと、なんと、嫁ではなくて、古狐が床のなかで丸くなって眠っていた。
 「こんちくしょう」
というて、若い衆が取り押さえようとしたら、びっくりした古狐がはね起きて、障子をけ破って逃げて行ったと。

 
 長者どのは、ようやく、もんじゃの吉にだまされたと気付いたと。長者は怒りに怒って、
 「吉をひっとらえて来い」
というた。 若い衆が吉の家へ行くと、お袋(ふくろ)が一人いて、
 「おら方(ほ)の吉は、他所(よそ)さ馬喰(ばくろう)に行って、今日で何日にもなるが、まだ帰って来(き)もさん」
というた。若い衆は、気勢(きせい)をそがれて、もそらもそら帰ったと。
 それから四、五日経った頃、長者どのの座敷の前を、やせ馬を曳いたもんじゃの吉が通った。
 唄なんぞ唄って、いい気なもんだ。
 長者どのが呼び止めて、嫁とりのことを糺(ただ)すと、もんじゃの吉は、
 「このところ俺は、奥(おく)の方(ほう)さ馬喰に行っていた。今帰ってきたばかりだもの、嫁取りだの、狐だの、俺が何で知るや。おおかた、その吉とやらも狐の仕業(しわざ)だろうさ」
と、すぽーんとした顔をして言うたと。

 それっきり。どっとはらい。

「もんじゃの吉」のみんなの声

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楽しい

なんとも呆れかえった奴だなあ。もんじゃの吉ってのは。( 20代 / 男性 )

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