― 広島県 ―
語り 井上 瑤
再話 磯貝 勇
整理 六渡 邦昭
昔、あるところに乞食(ホイト)があったと。
ホイトは京都の清水(きよみず)さんに鴻池(こうのいけ)の聟(むこ)にして下さいと願をかけた。縁の下に這入(はいい)って眠っていたら、七日目に清水さんが夢枕に立って、
「これ、聟にやァしちゃるが五厘損がいくがいいか」
と告げられたそうな。ホイトは、
「鴻池の聟にしてもらうのなら、五厘とはいわず、一銭二銭損がいってもええけん、どうぞ聟にしてつかっさい」
というた。清水さんは、
「あい、わかった」
いわれたそうな。
ホイトが有頂天(うちょうてん)になっていたら、ザワザワ、ザワザワ人声がした。幾人(いくにん)もの人が、
「どこに居(お)ってんじゃろか」
「どこじゃろか」
いうて誰かを探してるふうだ。そのうち、一人が、
「ここに居(お)ってじゃ」
いうて、皆がホイトのところへ集まって来た。番頭風な者が進み出て、
「もしもし、貴方(あなた)ァ鴻池の聟になって呉(く)れんじゃろか」
いうて頼んだと。ホイトは魂消(たまげ)て、
「何を言うかと思うたら、わしみたいようなホイトを、鴻池の聟じゃの何じゃの言うて、かもうて呉れるな」
「何の、かもうているのじゃない」
「私ァ鴻池の一の番頭じゃが、今日はどうしても連れて帰らにゃァいけんのじゃが」
いう。
ホイトが、
「わしにゃァ着るもんもないし、履物(はきもの)もない。何も無いんじゃけのう」
いうたら、
「うんにゃ。そんな物(もん)は皆用意出けとるけん、どうか一緒に行って呉れ」
と頼んだので、
「このまんまでよかったら行ってもええ」
と応じたと。
みんな大喜びで、着物を着せるやら、履物を履(は)かせるやらして、駕籠(かご)に乗せて鴻池に連れて行ったと。
鴻池では、聟さんが見えるというので、大騒ぎをして居たと。
聟さんが来たので、風呂に入れて洗うて、髪(かみ)を結って、着物を着せてみりゃぁ、そりゃそりゃ景色のいい男になった。
七日七夜(なぬかななよ)の祝言(しゅうげん)あげて八日目の朝になった。
鴻池の旦那さんが、
「聟どん聟どん、一寸(ちょっと)来て呉れェ」
いうて、一間(ひとま)へ呼んで、
「今日から此の家の身代(しんだい)をみなあんたに譲るつもりじゃが、一応蔵を見せて歩こう」
という。
二人で東の大きな米倉へ行って、錠をピンと開けてみると、中には米が崩れかかる程に積んであった。
「これも今からあんたのもんじゃ」
いうて、東の米倉の鍵(かぎ)を渡されたと。
次に西の金倉に行って、
「これもあんたのもんじゃ」
いうて鍵を渡された。
聟になったホイトは嬉しくてならない。
翌(あく)る日には、味噌・正油倉だの油倉だの、衣装蔵(いしょうぐら)やら道具蔵やら、みんなもろうて、最後に鉄蔵へ連れて行かれた。錠前(じょうまえ)が錆(さ)びて開かなかったと。
「聟どん、ひとつこれを開けてみて呉れェ」
いわれて、聟のホイトが力まかせに汗流してやったら、ピーンと音立てて開いたと。
その音に魂消て、目が覚めた。覚める拍子(ひょうし)に商売道具の御器(ごき)のお椀(わん)を投げて、真二つに割れてしもうたと。
五厘出してお椀を買わにゃ、明日からホイトが出来ん。
ホイトは五厘損したと。
だから高望みはしないものだと。
むかしかっぷり。
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むかし、豊後の国、今の大分県臼杵市野津町(おおたいけんうすきしのつまち)大字野津市(おおあざのついち)というところに、吉四六(きっちょむ)さんという、とても面白(おもしろ)い男がおった。
「大望は五厘損」のみんなの声
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