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やみよのかき
『闇夜の柿』

― 熊本県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤

 昔、あるところにお寺があったと。
 お寺の庭(にわ)の柿の木に、枝もたわわに実がなって、秋にはその実が赤く熟(う)れて、うまそうだと。
 お寺の和尚さん、慾(よく)の深いお人で、小僧(こぞう)にはやらず、自分ばかり食べるのだと。
 小僧は食べたくてしょうがなかった。


 ある日の夕方、和尚さん、村人の法事(ほうじ)に呼ばれて出掛けて行った。
 小僧は、この時とばかり柿の木に登って、思う存分食うたと。
 
闇夜の柿挿絵:福本隆男


 ところが、いっときもしたら和尚さん戻って来て、柿の木の下から上をながめるのだと。
 小僧は、下りどきを失のうて、木に登ったままだ。秋のお陽さまは隠(かく)れるのが早いから、あたりはとっぷりと暮(く)れて暗闇(くらやみ)になっている。
 小僧、木にしがみついて、じいっとしていた。
 和尚さん、柿ちぎり用の、先が二つに割ってある竹竿(たけざお)を持ってきて、ちょうど小僧のあたりを探(さぐ)りはじめた。
 小僧は見つかったのかな、と思い、それでも、じいっと木にしがみついていたと。
 「このあたりに柿の実がいっぱいあったはずなんじゃが、はて、竿先に手ごたえがないな」
 和尚さんのつぶやく声が聞こえてきた。
 「そんじゃ、もちいと上だったかな」


 どうやら、和尚さん、よもや小僧が上にいるとは思いも寄らないらしい。暗闇の中で、柿をひっちぎろうとしているだけだと判った小僧は、ほうと息を吐(は)いたと。
 そのとき、竿先が延(の)びてきて、小僧の睾丸(きんたま)をはさんだ。和尚さん、
 「よし、手ごたえあった」
いうて、竿をグルグル廻(まわ)してネジ切ろうとした。
 「ン、なかなか切れんな。そんなら、よし、これでもか」
いうて、今度は竿を反対方向に廻した。


 木の上では、小僧が目ン玉白黒させて我慢(がまん)しとる。いまにも睾丸(きんたま)がひきちぎられるのではないかと思えるほど痛(いた)い。痛いが声を出すわけにもいかん。脂汗(あぶらあせ)たらして「うーん」と堪(た)えたら、そのはずみで、ウンコ、柔らかいのがベラベラって、ひり出てしもうた。
 そしたら、ちょうど、上向いていた和尚さんの顔に落ちたと。


 和尚さん、熟し柿(じゅくしがき)が落ちてきたと思うて、指ですくって、べろっとなめたと。
 「うーん、闇の夜の熟し柿ゃ、糞(くそ)臭ゃくもあるもんだ」
とこういうたと。
 
闇夜の柿挿絵:福本隆男
  
 そりばっかりのばくりゅうどん。

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