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ききみみずきん
『聞き耳頭巾』

― 広島県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、むかし、あるところに大層(たいそう)心の優しいひとりの若者がおったと。
 ある日のこと、若者が海辺をあるいていたら、砂の上に大波にでも押し上げられたのか、一匹の鯛(たい)が苦しそうにアップアップしておったと。若者は、
 「こりゃかわいそうに、村の子供らに見つかりゃ殺されてしまうが。さ、料理されんうちに、早(はよ)う海へ逃げえや」
と言うて、鯛を海へ放してやったと。 

 
 それから何日かして、若者がまた海辺を歩いていると、波打ちぎわに美しい娘が一人おって、
 「もし、ちょっとお待ち下さい」
と、呼び止めたと。娘は、
 「私はこの間あなたに助けていただいた鯛でございます。あのときは命のあぶないところをよく助けて下さいました。ありがとうございます。今日は龍宮(りゅうぐう)の遣(つか)いとしてあなたをお待ちいたしておりました。これは乙姫(おとひめ)さまからあなたに差し上げるように言いつかりました、龍宮の宝物です。どうぞお納め下さいませ」 
 と言うて、ひとつの頭巾(ずきん)を差し出したと。若者は、
 「わしゃあ何も、こがあな物もらおうと思うてしたんじゃあありませんけえ。鯛が苦しそうにしとりましたけえの、海に放しちゃっただけなんじゃに」
と断ったが、是非(ぜひ)にと言われて受け取ったと。
 目を上げると、美しい娘はいなかったと。


 次の日は、冬の寒い海風が吹いたと。若者は、娘からもらった頭巾を耳までかぶって外を歩いていたと。
 そしたらどうだ。チュンチュン啼(な)いているとばかり思っていた雀(すずめ)がしきりに何事かを話し合っている。耳を澄(す)ますと、
 「人間いうなあ、どがあな間抜けなら。毎日村の一本橋渡るくせに、あの橋の真ん中に転がっとる石が黄金(きん)たあ、誰一人とて気がつかんのじゃけんのう」
と言うている。
 若者は一本橋の上にある石を拾うて、町のカンザシ屋に持って行った。雀の言っていた通り、金の塊(かたまり)だったと。
 若者はいっぺんに金持ちになったと。
 またある日のこと、若者は頭巾をかぶって森の中へ入った。すると、松の木の上でカラスが何かしゃべっている。耳を澄ますと、
 「人間いうなあ、どがあな間抜けなら。殿(との)さんの姫さんが病気じゃ言うて、国じゅうから仰山(ぎょうさん)医者ぁ集めよるが、誰も虎(とら)の尾いう草ァ煎(せん)じて飲ましゃあ治る言うこと知らんのじゃけんのう」
と言うている。

 
 若者は早速(さっそく)、虎の尾という草を摘(つ)み、お城の殿さまに、
 「お姫さまの病気、わしが治したげましょう。」
と、申し出た。たくさんの医者たちは、
 「わしらでも治せんもんを、こがあな田舎者(いなかもん)に治せるもんかい」
と、鼻で笑うたと。殿さまは、
 「誰でもかまやぁせん。姫の病気治した者は、姫の婿(むこ)にしちゃる」
というた。
 若者はカラスの言った通り、虎の尾の草を煎じて姫さまに飲ませたと。
 そしたらなんと、今にも死にそうなくらいよわっていた姫さまが、たちまち元気になったと。
 殿さまは大喜びだ。約束通り若者を姫さまの婿殿(むこどの)に迎えたと。
 若者が若殿(わかとの)となってからというもの、その国は栄えに栄えたと。
 龍宮からもらった宝物は聞き耳頭巾と呼ばれて、末永くお城の宝物になったと。

 なんのむかしもけっちりこ。

「聞き耳頭巾」のみんなの声

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感動

親切な心は福を呼び込むと思った。 人は慌てて通り過ぎるようなこと、たくさんの情報の中で惑わされたりすることでも、動物たちは自然のこと、本質的なことをよく知っているのかなと思った。( 20代 / 女性 )

楽しい

聞き耳頭巾がほしい!

感動

正直、半信半疑で読み続けましたが、ことばが広島訛りの様で話しやすく、またストーリーも心に響いて感動しました。主人公の優しさが胸に響いて来るようでした。また、ききみみずきんをかぶったあと、聞こえてくる声を素直に受け入れる受容さ、純朴さに改めて感じいりました。有り難うございました。( 70代 / 男性 )

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