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おおかみのまゆげ
『狼の眉毛』

― 広島県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 なんとむかしあったげな。あるところに、分限者と貧乏人とが隣りあって住んでおったげな。
 貧乏人は、分限者から毎朝鍋を借りて来て鍋の底にこびりついているコゲをこすり取って食べる有り様だったと。
 ある日、この姿を隣の分限者に見られてしまった。
 「もう明日から、鍋を借りに行くことは出来ん。自分のような男は、いっそ狼に喰われて死んでしまった方がええかも知れん」
と、思って、真夜中に狼の出る山へヒョロヒョロ登っていった。登っては行ったが、腹が空(へ)って高くは行けん。途中でへたりこみ、
 「さぁ狼ども、喰ってくだされ」
と、叫んだ。 

 
 すると、狼が北の方からゴソゴソやって来たが、どうしたことか少しも顔を見せない。 「のう、わしがやせてまずそうだから喰わんのか?こんでも少しは肉がついとるで、ほれ喰って下され。早よう」
 今度は、東の方から狼が出て来たが、やっぱり顔を出さない。
 男は、死ぬことも出きんのかと、すっかりしょげてしまった。
 すると、西から年老いた狼が近寄って、こう言った。
 「何んぼう『喰え喰え』言ったって、ここにゃお前を喰う狼はおらん。お前は真人間だからの。狼にはそれがようわかる。この狼の眉毛をやろう。これがあれば、決してひもじい目にあうことはないじゃろ」
 狼は、自分の眉毛を片方くれると、山の奥へ姿を消してしまった。
 男が山を下りて行くと、見知らぬ村で、大勢の早乙女達が田植えをしているところに出あった。
 男は、何げなく狼の眉毛をかざして見ると、みんな、山犬や、鶏や、猫豚に見える。
 

 
 「ふ―む。世の中にゃ真人間なんて、めったにおるもんでないなあ」
と、つぶやいておると、かっぷくのよい旦那がやって来て、
 「わしにも、その眉毛を貸してくれ」
と、言う。男が断わると、
 「では、ちょこっと家へ寄ってくれ」
と、立派な屋敷へ連れていった。
 旦那は、
 「わしはもう隠居したいと思うとる。お前は真人間と知ったので、この家の跡を継いでもらう気になった。ぜひ、たのむから受けてくれや」
と、言う。
 それからというもの、男は狼の言葉どおりひもじい思いをすることは無かったと。

 むかしかっぷりけっちりこ。

「狼の眉毛」のみんなの声

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