― 愛媛県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
四国(しこく)の伊予市(いよし)から宇和島(うわじま)へぬける郡中街道(ぐんちゅうかいどう)に、昔から目印(めじるし)になっている銀杏(いちょう)の木がある。
その木には、銀杏狸(いちょうだぬき)ちゅう一族(いちぞく)が住んでいて、木の枝(えだ)に化(ば)けるのを専門(せんもん)にしておった。
木の枝に化けるちゅうのは、こういうわけぞな。
このあたりの百姓(ひゃくしょう)は、弁当(べんとう)を持(も)って田んぼへ行くんだが、その時、さげて行った弁当を風通(かぜとお)しのいい木の枝を見つけてぶら下げておく。
まあ、たいていこうすることになっている。
銀杏狸はそれをちゃんと知(し)っておって、いかにも弁当を下げたくなるような木の枝に化けて、待(ま)っていたげな。
そこへ、なあも知らん百姓が来て、
「ほう、こりゃあいい枝じゃの」
と言うて、弁当を下げ、仕事(しごと)にかかると、狸がご馳走(ちそう)にありつくという段取(だんど)りになっておった。
ところが、ある日のことや。
ひとりの爺(じ)さまが、大銀杏のすぐそばの畑(はたけ)へやって来た。
見れば、でっこい弁当の包(つつ)みを下げている。
銀杏狸はうれしくなって、ぱあっと木の枝に化けると、爺さまの来るのを待っておった。
驚(おどろ)いたのは爺さまで、腐(くさ)ってがらんどうになった幹(みき)に、突然(とつぜん)青々とした枝が生(は)えたもんで、ははぁ、と思うた。
「この銀杏は、見れば見るほどいい枝ぶりじゃけど、なんや、ここににょっきり生えとる枝がおかしいなあ。もうちょっと向(む)こう側(がわ)にあれば、ほんに街道一の枝ぶりじゃに、惜(お)しいこっちゃ」
こう言うたげな。
銀杏狸は、我(わ)がすみかの銀杏をほめられてすっかり嬉(うれ)しゅうなった。
こりゃどうでも、街道一番の枝ぶりにならにゃあと、幹に抱(だ)きついておった足を、ちょっこり動かしたからたまらん。
ドサりと音をたてて落(お)ちてしまった。
爺さまは、腹(はら)をかかえて大笑(おおわら)い。
「銀杏狸や、そんな手は古(ふる)いぞな」
そう言うたもので、銀杏狸は恥(は)ずかしゅうてぼんぼり、ぼんぼり、逃(に)げてしもたげな。
むかしこっぷり。
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むかし、むかしあったげな。 ある旅の商人(あきんど)が大けな荷物を肩(かた)にかついで、丸太の一本橋の上を渡(わた)ろうと思いよったら、向こうからもひとりのお侍(さむらい)が渡りょったげな。
「銀杏狸」のみんなの声
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