― 千葉県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、ある年のお盆の夜のこと。ある浜辺から、一隻(いっせき)の船が漁(りょう)に出掛けて行った。
その晩は、風も静かで、空にも海にも星が輝き、まるで、池みたいな凪(なぎ)じゃったそうな。
沖へ出て手繰(たぐ)り網(あみ)を流すとな、沢山(たくさん)の魚が掛かってくるんだと。
「『盆暮に船を出しちゃあいけねえ』なんて、誰が言い出したんだ!そんなこたぁねぇ、見ろ、この大漁(たいりょう)をよお」
「そうじゃあ、そうじゃあ」
はじめは恐(おそ)る恐るだった漁師達も、いつにない大漁に気が大きくなって、夢中で網を手繰っていた。
だから、いつの間にか星が消え、あたりにどんよりした空気が漂(ただよ)ってきたのを、誰も気付かなかった。
突然、強い風が吹いた。
海はまたたくまに大荒れになった。
山のような三角波(さんかくなみ)がおそって来て、船は、まるで木(こ)っ葉(ぱ)のように揺(ゆ)れた。
漁師達は、流していた網を切り、死にもの狂いで船を操作(そうさ)した。それは、漁師達と海との戦いじゃった。
どれくらい経ったろうか。先程(さきほど)まで荒れ狂った海が嘘(うそ)のように治(おさ)まり、漁師達が疲れきった身体(からだ)を横たえている時だった。
朽(く)ちかけた大きな船が、音もなく近寄って来た。
そしてその船から、人影(ひとかげ)もないのに、
「お―い、あかとりを貸してくれぇ。あかとりを貸せぇ」
と、何とも言えない不気味な声が聞こえてくるんだと。
”あかとり”と言うのは、船底の水を汲(く)み取るひ杓(しゃく)のことだが、
あまりの怖(おそ)ろしさに、唯(ただ)もう逃げたい一心(いっしん)で投げてやった。
すると、その”あかとり”で、漁師達の船の中に水をどんどん汲み入れてくる。
「しまった。これぁ船幽霊(ふなゆうれい)だ。見るんじゃねぇ、早く逃げろ」
漁師達の船は水浸(みずびた)しになりながら、それでもかろうじて浜へ帰って来た時には、魂(たましい)の抜け殻(がら)みたいじゃったそうな。
このことは、漁師仲間に一遍(いっぺん)に伝わった。
それからと言うもの、お盆の日には、決して漁に出るものが無くなったそうな。
こんでちょっきり、ひとむかし。
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ある夏の夜のこと、十人近い子どもたちが肝だめしをやろうと大きなお寺の前に集った。 「なんだかお化けが出そうだなぁー」 「平気、平気、お化けなんか出るわけないよ」 「でも、やっぱり、こわいなぁー」子どもたちは、わいわいがやがやさわいでいた。
「船幽霊」のみんなの声
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