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からすにょうぼう
『カラス女房』

― 青森県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤

 むかし、茶売りの兄様(あんさま)があったと。
 兄様は、女房(にょうぼう)をもらうなら飯(まま)を食わない女が欲しいと探していたと。
 ある晩、兄様のもとへ一人の姉様(あねさま)がたずねてきて
 「おれぁ飯(まま)食わねから、お前(め)ぇ様の嬶(かか)ァにしてけれ」
というた。

 
カラス女房挿絵:福本隆男

 兄様が見ると、色は少し黒いが働き者だというし、飯も食わないというので、気に入って、その姉様を嫁(よめ)にしたと。


 次の日から茶売りの兄様は、姉様に留守(るす)させて商(あきな)いに出かけて行ったと。
 兄様が出かけると、きまって、カラスが飛んできて、屋根(やね)にとまってガアガア啼(な)いたと。
 夕方になって茶売りが帰ってくると、姉様はちゃんと夕飯の支度(したく)をして待っていた。そして兄様が食べるのをニコニコして見ているだけで、一箸(ひとはし)も食べなかったと。


 ある日、兄様が商いに出かけようとしたら、物陰(ものかげ)から隣(となり)の母様(おがさま)が兄様を呼びとめた。
 「兄、兄、お前(めえ)の姉様な、あれぁカラスだ。うそでねぇ。うそだと思うたら、隠(かく)れて様子(ようす)見てみればええ」
 茶売りの兄様、半信半疑(はんしんはんぎ)で、次の朝仕事に行くふりして家を出て、隣の母様(おがさま)と二人で物陰に隠れたと。
 すると、たくさんのカラスが集まってきて、
  東五郎(とうごろう)や 東五郎や
  そばの川原(かわら)に
  馬一頭 死んでいる
  食いに 行こうじゃ
と、くちぐちに言うた。
 すると、兄様の家のなかから一羽のカラスが出てきて、仲間と一緒に飛んで行った。


 茶売りの兄様はびっくりして、その場にへたりこんだと。隣の母様、
 「見たか、見たか、やっぱりカラスだ」
 「あ、ああ、見た。けど、あれ、ほんとに、俺(お)ら家(え)の嬶(かか)ァだべか」
 「たしかめてみるか」
 「どうやってだ」
 「鳥というのは湯(ゆ)ぅさ入るのが嫌いなもんだ。湯ぅさ入れてみればいい」
というた。兄様が、
 「そういわれてみれば、嬶ァが湯ぅさ入ったとこ、一度も見たことが無(ね)えな」
というと、隣の母様、
 「色も小黒(こぐろ)いだべ」
というた。
 茶売りの兄様は家に戻ってすぐに風呂(ふろ)を沸(わ)かしたと。
 しばらくして姉様が家に戻ってきた。
 兄様、姉様が嫌(いや)がるのを、
 「入れじゃ、入れじゃ」
というて、無理矢理(むりやり)風呂へ入れたと。

 
カラス女房挿絵:福本隆男

 そしたら、姉様は、
 「熱(あち)い、アチ、アチイ」
というて、すぐにカラスになって、ガアガア飛んで行ったと。
 
 とっちぱれ。

「カラス女房」のみんなの声

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とても賢い話ですね。

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その後が気になります????( 40代 / 女性 )

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