東方三月精であったな( 10代 / 男性 )
― 青森県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭
むかし、青森県の八甲田山(はっこうださん)の麓(ふもと)にひとりの男が住んであった。
男が山裾(すそ)の道を歩いていたときのこと。
少し向こう前(さき)に、いきなり棒(ぼう)のようなものが突(つ)っ立った。青黒くて、細い、小児(こども)の背丈(せたけ)ほどの。
その棒のようなものは、突っ立ったかと思うと、ぱたりと倒(たお)れた。
「ありゃ、何じゃ」
男が立ち止まったら、それがまた突っ立って、倒れた。繰(く)り返し、繰り返しそんなことが起こるので、そおっと近づいた。そしたら、棒と見えたのは、蛇(へび)だったと。
その蛇のまわりを大粒(おおつぶ)のかたつむりたちがぐるぐるとまわっている。
かたつむりはのろいはずなのに、それがけっこう速い。蛇のまわりを輪を描(えが)いて、ぐるぐる、ぐるぐるまわっているのだと。輪の中で蛇は突っ立ってはパタリと倒れ、また突っ立っては倒れしている。
男は、初めて見る光景で魂消(たまげ)たが、これも話の種じゃ思うて、見物しておった。
かたつむりたちは、徐々(じょじょ)に輪を狭(せば)めていく。
蛇はますます苦しげに突っ立っては倒れる。
そのうちに、かたつむりたちが蛇のからだにぴたりと取り付いた。そうしたら、何と、何と、蛇のからだが溶(と)けていって、終(しま)いには赤いとろとろのものになって地面に広がった。
男はあっけにとられていたが、あまりに不思議なことなので、蛇がとろけたそばに枯れ枝(かれえだ)を突き立て、その日は帰ったと。
次の日の朝、男は気になって、またあの場所へ行ったと。枯れ枝のそばには赤いとろとろの水溜り(みずたまり)はもう無かったが、そのかわりに、そこには見たこともない大っきな白いきのこがひとつ育(おが)って、こきざみに震(ふる)えてあった。
よおっく見ると、きのこの仐(かさ)の裏(うら)に何かが動いているようだ。
<気味悪りぃな>
男は枯れ枝を抜(ぬ)いて、それできのこの仐をそおっとめくってみた。
そしたら、柔(やわ)らかなヒダヒダ一面に、数えきれんほど、こんまいこんまいかたつむりが蠢(うごめ)いて、それらがきのこをもさぼり食うていたのだった。
昨日のかたつむりたちは、蛇をきのこに変えて、子供(こども)らに食わしたのだと。
これは珍(めずら)しいことでは無いそうな。
挿絵:福本隆男
尾張美濃(おわりみの)あたりでは、なめくじが蛇に取り付くと、やはり、蛇は棒のようになって死に、とろとろと溶けるという。そのあと同じようにきのこが生えて、これを“蛇きのこ”と言うそうな。蛇きのこには、やっぱりなめくじが寄(よ)り集まって、すぐに食い尽(つ)くすのだと。
とっちぱれ。
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