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しがまのよめこ
『シガマの嫁コ』

― 青森県 ―
語り 平辻 朝子
出典 北沢得太郎 鈴木喜代春 共著「ほらと河童と雪女」
整理・加筆 六渡 邦昭

 昔、独(ひと)り身の若者、いであったど。
 ある冬の朝に、茅葺(かやぶ)きの屋根から氷柱(しがま)コ下がっていで、雫(しずく)コポタポタ落ちでいるのを見でいだど。
 シガマってか?つららのことだ。
 
  ほれ見て、
 「姿(すがた)形もええし、色も透(す)けとるし、こんな氷柱のような娘(むすめ)コ、欲(ほ)しいもんだじゃ。おらも、嫁(よめ)コもらってもええ年齢(とし)になったじゃ」と、独り言しゃべっていだど。

 その日も一日暮(く)れだど。若者ァ、一日中雪切りで疲(つか)れたから、寝(ね)るべど思って立ちあがっだど。


 したけァ、トントンと、戸ば叩(たた)く音コしたど。若者ァ、
 「誰(だれ)だぁ」
ときいだけァ、
 「吾(わ)、お前(め)の嫁コになりたぐてきた」
といったど。
 若者、戸を開けでみだけァ、年だば十七、八の娘で、目も鼻も、口元コもいいして、背(せ)の高けぇきれいな娘であっだど。
 
シガマの嫁コ挿絵:福本隆男


 若者ァ、どして、こったらきれえな娘コおらのどこさ嫁に来て呉(く)れだだべど思ったど。
 「さぁ、入れじゃ」
と、若者いったど。
 「それだば、ごめんくだせぇ」
といって、娘ァ、家さ入って台所のまんなかさ座(すわ)っだど。若者ァ、
 「どして、おらのどこさ来てもええど思っただば。誰がに聞いで来たのだべか」
と、たずねだど。したけァ、娘ァ、
 「今朝方、お前(め)がシガマコ見で、こった娘コ欲しいど、しゃべっていたのを聞いでいだんだす。私で良がったら、どうか嫁コに貰(もら)って下さい」
といったど。若者ァ、
 「吾(わ)だけァ、父親にも母親にも死に別(わが)れで、たったの一人暮らしの手間取(てまど)りだ。それでもええだら、来てくれねべか」
といっだど。
 娘ァ、それでもいいって、そのまま若者の嫁になったど。それがらは、夫婦仲よく暮らしていだど。


 ある日、若者ァ、嫁コに、
 「隣(となり)で風呂沸(わ)がしているから、もらって入ってくればええ」
と、すすめだど。
 嫁コ、湯だば大嫌(きら)いだけれど、もらいに行っだど。
 それがらしばらく経(た)って、なんぼ待じでも戻(もど)って来ねど。

 あんまり戻りが遅(おそ)いもんで、若者ァ、迎(むか)えに行っだど。風呂場さ行って、嫁コばなんぼ呼(よ)ばっても返事しねど。
 おがしいと思って、なかさ入って見だど。
 嫁コの姿、いねど。
  風呂桶(おけ)の中ば見だけァ、差していた櫛(くし)どカンザシどが、浮(う)がんでいだど。
 シガマの嫁コ、解(と)けてしまっただど。
 
 とっちぱれ。

「シガマの嫁コ」のみんなの声

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