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りゅうじんさまときこり
『竜神様と樵』

― 青森県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、ある山奥で樵(きこり)が三人山小屋(やまごや)に泊って山仕事をしていたそうな。
 ある日、仕事が終ってから、山小屋で晩飯(ばんめし)をすまして夜話(よばなし)をしていたと。
 そしたら、そのうちの一人が突然、ウーンとうなって苦しみ出した。顔色がだんだんに青くなって、いまにも死にそうになったと。
 「お、おい、どうした」
 「どこがあんべえ悪(わ)りいだ」
 「ウーン、下っ腹が痛ぇだ」
 「ん、分った。ここか」
と、二人が両脇からその男の下っ腹に手をのばしてさすってやったら、腹が変にふくらんで、腹の中で何かが、ゴニャラ、ゴニャラ動いている様子だと。
 

 
 「横になれば、楽になる」
と、その男を寝かせたと。
 寝かせてみて気がついた。何と、男の尻の穴に、地面から出て来た毛むくじゃらのごっつい手が、入っていたと。
 二人はびっくりして、
 「な、な、なんだ、これは」
と、その手を抜こうとしたけど、なんぼ引っ張っても、手は抜けないのだと。
 二人は怖ろしくなって、
 「ば、ば、化け物だぁ」
 「ウヒャー」
と、逃げてしまったと。

 
 残された男は、ただもう、脂汗流してうなるばかり。
 そのうち、どこからか、割れ鐘を打ち鳴らしたような声が聞こえてきた。
 「わしは、この沢にいる大蛇じゃ。間もなく百年の行(ぎょう)が終わるところだ。行が終われば、わしは海へ行く。海であと百年の行をして竜になる。近いうちに、三日間大雨を降らせる。その水に乗って海へ出るが、この小屋の側に桂の木がおがっているじゃろ、あの木がじゃまだ。あの木を倒してくれろ」
と、いっているんだと。
 樵は、苦しいのをがまんして、
 「切り倒してやりたいども、おら動けん」
というと、そのとたんに、尻の穴の手がスポンと抜けて、元の身体になったと。

 
 樵は喜(よろこ)んで、桂の木を切り倒して炭に焼いてしまったと。
 
竜神様と樵挿絵:福本隆男
 

 
 炭焼きが終った夜から、山が鳴って、大雨が降り出した。
 三日目に樵は、大蛇がいる穴を見に行ったと。
 大蛇は、たった今、その穴からウネウネ出ていったところだった。
 樵は、びくびくしながらその穴の中へ入ってみた。そしたら、穴の奥に、ピカピカ光るものがある。そろりそろり近づいて、よくよくみたら、何と、でっかい金の塊(かたまり)だったと。
 「はあ、あの大蛇が、おらにお礼にこの宝物授けてくれただな」
 樵はその金の塊もらって、いっぺんに大分限者(おおぶげんしゃ)になったと。
 逃げて行った二人は、それからのちも何もいいことなくて、一生貧乏で暮らしたと。

 とっちぱれ。 

「竜神様と樵」のみんなの声

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感動

体調不良になった樵は、竜神様に見込まれたんですね。竜神との約束を守って木を伐採した結果、福に授かれた。他の2人の樵も逃げずに看病続けていたら福に授かれていたかもしれないですね。2人の樵も分が悪いとわかると最後には逃げ出しましたが、途中まで樵を助けようとしていたし、世間一般の対応としては対応なので何とも。( 40代 / 女性 )

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