― 秋田県 ―
語り 井上 瑤
再話 今村 泰子
整理・加筆 六渡 邦昭
江差(えさし)の茂二郎(しげじろう)て人、あるとき、山さ行(え)たわけだ。
官林(かんりん)の山の木を盗伐(とうばつ)すると山役人にとがめられるども、わいろをつかまえさせると御免(ごめん)してもらうによいという評判(ひょうばん)であった。
茂二郎考えて、鍛冶(かじ)屋さ行って、コの字形の釘(くぎ)を四十も五十も作ってもらった。
それを風呂敷(ふろしき)さつつんで、山さ行ったわけヨ。
して、ダキーン、ダキーンて、木ィ切っていたけ、山役人きて、
「こらぁ」
て、いうわけだ。茂二郎、おどろいて、
「ごめんしてけれ、ごめんしてけれ。今つかみ差しあげますから」
て、言って、腰(こし)から風呂敷とって渡(わた)したと。
山役人、いつもの物だべ、今のはよほどずっぱりくれたな、と思って、持って帰って風呂敷あけて見たきゃ、何と、それは釘であったと。
また、こんな話もある。
昔だば、毎晩(ばん)遊ぶに行く宿あった。
茂二郎も宿さ毎晩行くども、皆(みな)が食べ物の材料を持ち寄(よ)って料理つくっても、その時だけは来ねで、皆して食うべという時になれば、
「さあさ、おれも食うべ」
と、入ってくるわけだ。
ある晩、茂二郎来ねうちにだまこ餅(もち)作って食うことにして、煮(に)ていたと。
挿絵:福本隆男
したけ、皆して食う時になったけ、戸を叩(たた)く者いるわけだ。皆、居(い)ねふりして黙(だま)ってたけ、
「こぼれる、こぼれる」
て、茂二郎言うわけだ。
今日だば酒コでも持ってきたかと思って、戸の口あけたきゃ、茂二郎、
「戸の口から隙見(すきみ)してたけ、おれも食いたくて、涙(なみだ)こぼれるって言った」
こういうたと。
とっぴんぱらりのぷう。
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「茂二郎とんち話」のみんなの声
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