― 秋田県 ―
語り 井上 瑤
再話 今村 泰子
整理 六渡 邦昭
昔、前田の滝の沢に、三太(さんた)ていう正直な男いてあったど。妻(あば)と二人で毎日釜焼(かまやき)していたけど。
したども貧乏で、その上子供いっぺえ持って、食わせるもなも出来ねぇほど難儀(なんぎ)していたど。
沢の水冷(ひ)やっけ為に、米ぁ出来ねぇし、粟(あわ)だの稗(ひえ)だの作って養ってらったきぁ、また妻腹高くなってしまったど。三太だば、
「子供だば天からの授かりものだんて、なんぼいても良いてば」
て、言って、一生懸命稼(かせ)いでらったど。
あるとき、三太いつものように山さ行って木切りしてたきぁ、うんて眠てくなってきたど。
気の根っこさ腰かけて眠りかけてらったきゃ、白髪(しらが)の爺(じ)さま前さ立ってらったと。
挿絵:福本隆男
「三太、これ三太、ん(おまえ)が正直で、うんて働くんてかに、んがさ宝物授けてやるでぁ」
とて、紫の小袋こ渡したど。
三太、なに入ってたと開けて見たば、三太の尻(けつ)鳴りだしたど。
〽じゃあ じゃあ じっぷく じっぷく
さくらくじの さあがほが さあがほが 本覚寺(ほんがくじ)
清水(きよみず)の観音のおはらどう 太鼓と鐘と 鳴らばなれ
とうふやでごでぁねぁでぁ(ございません) たぁんき たぁんき
どて、何回も繰り返し尻鳴り出して止まらねど。
「こらぁ騒動(そうどう)だことしてしまった。こっそり投げてしまえ」
て、言って、今度ぁ小袋こ締めたきぁ、摩訶不思議(まかふしぎ)、その尻の鳴る音止まったけど。
おかしなものだと袋の口開ければ、また尻鳴るし、また紐締めれば止まる。
三太、山下りて妻さ、
「妻、妻、おれ良い物もらって来たでぁ。神様だべかぁ、白ぇ着物きた爺っちゃ、おれさ小袋呉(け)ていった」
て、言ったきぁ、妻、
「どりゃ、どりゃ」
とて、その小袋ことって口あけたきぁ、今度あ妻の尻鳴り出したど。
〽じゃあ じゃあ じっぷく じっぷく……
締めれば止まるし、妻、夫(てて)さ、
「夫、夫、これだば前田の庄屋様さ行って、小袋こ買ってもらうべし」
て、言って、夫、山おりて行ったど。
前田の加賀屋(かがや)の前さ行ったきぁ、加賀屋のかみさん下駄こカラカラ音させて、便所さ入って来たっつもの。
三太、便所の後さ回って、小袋こ開けたきぁ、かみさんの尻鳴り出したど。
〽じゃあ じゃあ じっぷく じっぷく……
かみさん、どてん(動揺)して、尻とこなでたり、叩いたりしてたども、尻止まらねぇど。大変だとノンノン走って納戸(なんど)の中さ逃げて行ったど。したども、納戸の中から、
〽じゃあ じゃあ……
て、聞けるつもの。
かみさん、なんともならなくて、床(とこ)さついてしまったど。
医者も針師も呼ばって来たども、なんたことしても止まらねっものな。どうしたら良かべと思っても、なんともならねかったど。三太、
「大変なことした。前田のかみさんさ、こんたことして咎(とが)められるこっだば大変だ」
と思って、家さ帰って来たども、かみさんの尻鳴ってるべと思うと、家にもおられねぐなって、おそるおそる、加賀屋の旦那様さ、
「おれ、その尻止めること覚えてた。おれさ止めらせて呉れ」
て、さべったど。
「んだきぁ、やって呉れ」
て、言わって、三太、あたり前(め)だば寄りつくことも出来ねよな前田の加賀屋だども、家の中さ入って行ったど。
三太、おそるおそる、かみさんの納戸さ入って行ったきぁ、頭さ鉢巻(はちまき)して、布団かぶって、尻鳴らしてらったけど。
三太、こそっと寝てらとこの下の方さ行って、こそっと小袋の口締めたきぁ、ピタッと鳴るの止まったど。
加賀屋ぁ喜んで喜んで、三太さ高脚(たかあし)の膳(ぜん)でご馳走(ちそう)して、いっぺえ宝物呉てやったど。
それで、童達(わらしたつ)育てるのに難儀さねぇで、安楽にくらしたど。
どっとはれ。
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むかし、むかし、日向の国、今の宮崎県日南市飫肥の報恩寺というお寺に、“とくぞす”という知恵者の小僧どんがおったっと。 ある日のこと、寺の和尚さんから、 「よい、とくぞす、お前すまんが、清武の庄屋どんかたまで使いに行ってくれ」 と、頼まれた。
「尻鳴り袋」のみんなの声
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