この話で秋田県では石炭が採れると知りました( 30代 / 女性 )
― 秋田県 ―
語り 井上 瑤
再話 今村 泰子
昔、昔。
田根森の人達、薪(たきぎ)が少なくて、大した難儀(なんぎ)してだけど。
ある冬の寒い日、この田根森さ、みすぼらしい一人の坊主、お貰(もら)いにシャ、やって来たけど。
ちょうど昼間時だったがら、一軒(いっけん)の家さ入り、一杯の飯(まんま)頼(たの)んだけど。
芋煮(いもに)でだその家の親父(おど)、坊主見るど直(す)ぐ、人悪く、
「この芋はナ、石芋ど言ってナ、なかなか煮れねぇ芋だで」
ど言ったど。
坊主、仕方無がら、しょぼんどして、次の家さ言ったば、そこの家では、
「寒どこ御苦労(ごくろう)さんだなんし。うめぇぐも(うまくも)ねしども今、雑炊(ぞうすい)出来たんし。これでもあがってたんせ」
ど、気持良ぐ、囲炉裏端(いろりばた)さ迎ゃで、あったけえ雑炊食しぇだけど。
ンだども、坊主だんだん経つど、囲炉裏の火足りねえのが気になって、とうど親父さ言ったど。
「も少し、柴(しば)燃やして貰えねんすか。寒くなって来たんすがら」
親父困ったど思ったど。ンだども、土間がら柴持って来て、一杯くべでやって呉(け)だけど。
挿絵:福本隆男
晩げになって、吹雪(ふぶき)大した強ぐなって、だんだん寒ぐなって来たけど。チョロチョロ燃えでる火っコ前にして、坊主柴を少しずつ、燃している親父さ、
「もっと一杯燃やしてたんせ。大して寒くて体さこたえるがら。おう寒い」
ど、言ったけど。
したば親父、本当に悪そうに、
「このあたりなば、山コさ遠ぐて、どこの家でも薪っコ少なくて、冬の中大した難儀しでるんし。本当に寒い目させで、申し訳ねんし」
ど、薪に困ってるの言ったどシャ。
ンだども、坊主温(ぬ)くくなれるくりゃ柴くべでやって呉だけど。
次の朝間(あさま)、坊主は心のこもったもてなしに心から礼言って、どこかへ立って行ったけど。
やがて春なった。親父毎日鍬(くわ)振(ふ)って、荒れ地の開墾(かいこん)続けでたど。ンだけども、なんぼ掘っても、土コ、黒いポロポロしたのばかりだけど。親父、ガッカリしてしまって、
「なんと、これだばなんぼ掘っでも、なんどもならねぇ。なんとしたら良(ええ)べ」
と独り言しゃべったけど。
して、鍬置いで一休みするべど思って、藁(わら)っコや木っコ集めで焚火(たきび)始めだど。したば、いつまでもポカポカど温くいけど。
親父たまげで良く見たば、どうした事だべ、そのポロポロの黒ぇ土っコ燃えでいたなだけど。親父たまげで、
「あっ、土っコ燃える。燃える土っコだ」
ど、とびあがって喜んだけど。
それがらその家では、どんな寒い時でも暖かく面白ぇ暮らししたどいう事だど。
芋煮でた家では、
「どれ、もう煮れた頃だべ」
ど、箸(はし)刺して見だども、何時(いつ)でも石の様に固ぐて、煮れなかっだどいう事だど。
先の坊主、弘法大師(こうぼうだいし)様であっだけど。
とっぴんぱらりのぷう。
この話で秋田県では石炭が採れると知りました( 30代 / 女性 )
「田根森根っこ」のみんなの声
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