可愛いそう
― 山梨県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところに継母(ままはは)があったと。
五月のあるお陽さまのいい日に、継母は山の畑へ麦刈り(むぎかり)に行った。
出しなに、継子(ままこ)に昼時(ひるどき)には弁当(べんとう)を持って来るように言いおいた。
昼時になったので、継子は弁当を背負(せお)って山へ行った。
「おっ母(か)ぁ、どこぞおぉ」
と呼んだが、継母の返事がない。
「おっ母ぁ、どこぞおぉい」
継母は、娘をいじめてやろうと思うて、畑の一番上から返事したと。
「ここだ、ここだぞぉ」
継子は、ほっとして、上の畑へ登って行った。が、継母の姿が見えない。
「おっ母ぁ、どこぞい」
と呼んだら、ずうっと下の畑のあたりから、
「ここだ、ここだぞ、何をぐずぐずしている」
という声がした。
継子は、急いでかけおりた。が、下に着いてみると、今度は一番上の畑のあたりから声がする。
「何をぐずぐずしている。ここだ、ここだぞ」
何回も何回も、弁当を背負って登ったり下(くだ)ったりしているうちに、身体の弱い継子は、とうとう倒れて死んでしまったと。
継母はその罰(ばつ)で、かっこう鳥になり、
「かっこう、かっこう」
と、口がさけて血が出るまで、日に八千八声(はっせんはちこえ)啼(な)きつづけなければならなくなったのだと。
もし、それだけ啼かないと、口から蛆(うじ)が湧(わ)いてくるのだそうな。
いっちん さけぇ。
可愛いそう
むかし、大分県の野津市というところに、吉四六という知恵者の男がおった。あるとき、吉四六さんが臼杵の街を通りかかると、魚屋の店先に、十個ばかりのさざえがあるのが目にとまった。
昔、ある山間(やまあい)に一軒(けん)の家があって、男と女房(にょうぼう)とは暮(く)らしていたと。 家の前の道、ときどき、猟師(りょうし)たちが猪(いのしし)だの熊(くま)だの獲物(えもの)を担(かつ)いで通ったと。
むかしむかし、ある竹藪(たけやぶ)の中に、大きな虎が一匹住んでおったと。虎は日ごろから、ひととび千里(せんり)じゃ、と走ることの早いのを自慢(じまん)にして、いばっておったと。
「かっこう鳥と継母」のみんなの声
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