先に言えよ。黒神いい面の皮じゃないか。( 40代 / 男性 )
― 青森県 ―
語り 井上 瑤
再話 大島 廣志
むかし、陸奥(むつ)の国(くに)、今の青森県の竜飛(たっぴ)というところに、黒神(くろがみ)という神様(かみさま)が住んでおったと。
そしてまた、竜飛からはるかに離(はな)れた十和田湖(とわだこ)のほとりには、照(て)る日も曇(くも)らすほどの美しい女神(めがみ)が住んでおったと。
黒神は、その女神に恋をしたそうな。
黒神は、毎日、毎日、龍(りゅう)に乗って、女神を訪(たず)ね、
「わしの妻になれ」
と、言うておった。
女神は、いつも、
「もう少し待ってくだされ」
と言うて、確かな返事はしなかった。
挿絵:福本隆男
一方、羽後(うご)の国、今の秋田県の男鹿半島(おがはんとう)というところには、赤神(あかがみ)という神様が住んでおって、この赤神も十和田湖の女神に恋をしていたそうな。
赤神は、鹿(しか)をお使いにして、毎日、毎日、心優しい手紙を女神に送っていたと。
手紙には、必ず、
「私の妻になってくだされ」
と書いてあった。
女神は赤神にも、いつも、
「もう少し待ってくだされ」
と返事を書いた。
女神はなやんだ。
黒神のたくましさにはあこがれたし、やさしさあふれる赤神にも心ひかれた。
そのうちに、黒神と赤神は、女神のことで争(あらそ)いをおこした。
黒神が、龍を(赤神のいる男鹿半島に)走らせれば、赤神も、負けじとばかり、鹿を黒神のいる竜飛に走らせる。
龍は、口から火を吹いて鹿を追いはらい、鹿は、たくさんの数(かず)で龍に立ち向かう。
「お前が身をひけー」
「お前こそあきらめろー」
と、どちらもゆずらないのだと。
みちのくの神様たちは、岩木山(いわきやま)に登ると、黒神の味方は山の右側に、赤神の味方は山の左側に陣(じん)どって、
「黒神かてー」
「赤神まけるなー」
と、てんでに叫んで応援しておった。
ところが、力の強い黒神の方が勝ちそうだと見たのか、神様たちの七割(ななわり)が右側に集まってしもうた。それで、山の右側が神様たちに踏(ふ)みくずされ、今でも、岩木山は右の方が低くなっているんだと。
さて、黒神と赤神の戦(いくさ)だが、なかなか勝負(しょうぶ)がつかん。
ところが、ある夜のこと、赤神軍の二番大将の鹿が、太陽の沈む夢を見て、その夜のうちに死んでしもうた。
さあ、それを聞いた鹿の赤神軍は、弱気になって総くずれ。あっという間に、龍の黒神軍が(男鹿半島めがけて)押し寄せてきた。赤神は、
「もうこれまでだ。以後、再び世にあらわれることはないだろう」
というと、岩屋(いわや)の中(なか)に身(み)を隠(かく)してしもうた。
喜んだのは黒神だ。急(いそ)いで龍に飛び乗ると女神の住む十和田湖に向った。
ところが、そこには女神はおらんかった。
黒神は、血まなこになって、女神を探した。ようやく女神の居場所を探し当てた。
なんと、女神は、赤神の身を隠した岩屋の中にいたのだ。
女神は、最後になって、心優しい赤神を選(えら)んだそうな。
黒神は、怒(いか)りくるった。
雲を呼び、雨を降らせて、みちのく一帯(いったい)は大嵐(おおあらし)となった。
あらしの中に立った黒神は、大きく息を吸いこむと、千年分(せんねんぶん)の息(いき)を、一度に、
「ブォーッ」
と吹きかけた。
そのいきおいで、土地が動き、今の北海道が出来あがったそうな。
とっちばれ。
先に言えよ。黒神いい面の皮じゃないか。( 40代 / 男性 )
赤神が死んしゃんて
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「赤神と黒神」のみんなの声
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