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とらとかたつむりのきょうそう
『虎と蝸牛の競争』

― 山口県阿武郡 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかしむかし、ある竹藪(たけやぶ)の中に、大きな虎(とら)が一匹住んでおったと。
 虎は日ごろから、ひととび千里(せんり)じゃ、と走ることの早いのを自慢(じまん)にして、いばっておったと。
 ある日のこと。
 虎が竹藪の中を遊び歩いていると、蝸牛(かたつむり)に出会ったと。蝸牛が、
 「虎さん虎さん、毎日こう藪の中にいるちゅうのは、気がめいるもんですな。今日は天気がええし、ひとつ、原っぱの向こう端(ぱた)まで駆(か)け競(くら)べして気をはらそうじゃないですか」
と言うた。虎は、
 「なんじゃて、このおれと駆け競べしようてか。おまえ、気でも狂(くる)ったんかい」
と言うて、相手にせんかったと。

 
 そしたら蝸牛が、
 「いやあ、わしが日ごろずるずるしちょるからちゅうて、そねえにこけにしなさんな。これでも、いざっちゅうときにゃぁ、あんたに負けるもんじゃない。言うちょるより、さぁひとつやりましょうえの」
と言うたので、つい虎はつりこまれて、
 「ふん、それじゃ、やってみるか」
と言うたと。
 
 大きな虎と小さな蝸牛とが、競争(きょうそう)をすることになった。
 いちにのさん、の掛け声で走り出したと。
 虎は、自慢のひととび千里の勢いで、またたく間に原っぱの向こう端に着いたと。そして、後ろをふりかえり、蝸牛は今ごろ竹の一節(ひとふし)くらいは来たじゃろかい、と思って、今来た向こうを見ていると、後の方から、
 「よおい、虎さん、遅(おそ)かったじゃなですか。わしゃあさっきからここに来て、どひょう待っちょりますえ」
と、声がしたと。虎は、
 「えー」
と言ったっきり、次の言葉が出てこない。


 「も、もういっぺんやろう」
 「いいですよ」
となって、元の場所まで、また駆け競べをしたと。
 けど、やっぱり虎は負けたと。
 虎は不思議(ふしぎ)でならない。気味悪(きみわる)そうに蝸牛を見て、藪の中へ姿を消したと。
 実は、蝸牛は虎がとび出すはずみで尾(お)を地面につけたとき、その尾に取り付き、急に止まって尾を払(はら)ったとき虎の向こうに飛んだんだと。
 そうとはしらない虎は、それからは蝸牛の前では、ひととび千里などと言って、いばらなくなったと。

  これきりべったり ひらの蓋(ふた)。

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