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にんげんばんじさいおうがうま
『人間万事塞翁が馬』

― 山形県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤

 むかしむかし、日本の隣(となり)の國(くに)、中国の宋(そう)の国に、塞翁(さいおう)という人がいたそうな。
 あるとき、塞翁は姿のいい女馬(おんなうま)を買ってきたそうな。
 
人間万事塞翁が馬挿絵:福本隆男


 「すこし、高い買い物だったかなぁ」
と思うていたら、近所の人たちがみなみな、
 「すばらしい馬だねぇ」
 「ええ馬だなあ」
というてくれる。
 「いやいや、高くね、安いくらいの馬だ」
と思いなおして喜んでいたら、ある日、その馬が逃げてどこかへ行ってしまった。
 あっちたずね、こっちたずねしても馬の行方(ゆくえ)を知った人はいない。捜(さが)しあぐねて、占師に占ってもらったら、占師は、
 「またよいこともあるでしょう」
というた。


 そうこうして日が経ったある日、パカパカ、パカパカ馬の蹄(ひづめ)の音がするから家の外へ出てみたと。
 そしたら逃げて居なくなった塞翁の女馬が戻ってきて、その上、毛並みのいい男馬を伴(ともな)って来ていた。
 塞翁はすばらしい馬二頭の持ち主になったと。
 近所の人たちが
 「いや、めでたい」「おめでとうさん」
というて、祝ってくれるので、占師のところへお礼に行った。そしたら占師が
 「また、悪いこともあるでしょう」
というた。


 塞翁は、
 「あの占師たら、なにをいうやら」
というて腹(はら)を立てた。
 ある日、塞翁が馬に乗っていたら、馬が何かに驚(おどろ)いて棹(さお)立ちになった。塞翁は馬から転げ落ちて足を怪我(けが)したと。
 占師のところへ行って、
 「馬二頭の持ち主になって喜んでいましたら、あなたの言うとおりになりました。また占って下さい」
と頼んだら、占師は、
 「また、よいこともあるでしょう」
というたと。
 それから少し経って、戦争が始まった。
 五体満足(ごたいまんぞく)な男は、みな民兵(みんぺい)として引っ張られて行った。が塞翁は、足が悪くなったので、戦争にかりだされなくてすんだと。


 その戦争は、負け戦(まけいくさ)で、かり出された民兵たちは、みな殺しの目にあったそうな。
 塞翁は怪我のおかげで生命(いのち)拾いして、天寿(てんじゅ)を全(まっと)うしたと。
 こんなことがあってから、いいことがあったり、悪いことがあったりすることを、
 「人間万事塞翁が馬(にんげんばんじさいおうがうま)」
と言うようになった。
 
人間万事塞翁が馬挿絵:福本隆男


 日本の国でも、古い歌に、
 「裏(うら)を見せ、表を見せて、散(ち)る紅葉(もみじ)」
と詠(うた)った人もいて、人生は、表目(おもてめ)出たり裏目(うらめ)出たり、どこでどう変わるかわからないのだから、うまくいかないからといって、なげいてばかりいないで元気出しなさい。またいい事があったからといって有頂天(うちょうてん)にならずに心をひきしめなさい、と諺(ことわざ)で教えてくれているんだと。
 
 どんぴんからりん、すっからりん。

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