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かしゃねこ
『火車猫』

― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかしあったんですと。
 火車猫(かしゃねこ)というのがあったんですと。
 火車猫というのは猫が化けたものですが、なんでも、十三年以上生きた猫が火車猫になると、昔から言われています。

 むかしむかしのことですが、あるとき、この火車猫が観音様におまいりに行ったんですと。


 そしたら観音さまが、火車猫に、
 「実はの、谷二つばかり越(こ)えた山の中に炭焼きの男がおっての、嫁(よめ)がいなくて大いに困っとる。貧乏(びんぼう)な上に、何せ山の奥(おく)の奥じゃ。まともな娘(むすめ)は、嫁になってやろうなど、これっぽっちも思いやせんでの、何とかしてやりたいとわしも思うとるんじゃが、これがどうにもならん。そこでお前にきくが、お前、花嫁ごに化けられるか」
といわれたんですと。
火車猫が、
 「花嫁ごなど簡単(かんたん)だ」
というと、観音さまが、
 「そんではの、花嫁ごに化けて、ずうっと化け通せるかな。化け通せるなら、わしが仲人(なこうど)してやるがどうじゃろな」
といわれた。


 「ほんなことわけもない」
 「決して元の本性(ほんしょう)出さないか」
 「出さねえっす」
 「ほんとうに本性出さないで、ずうっとその男の女房(にょうぼう)でいたら、いつかきっと、お前を本当の人間にしてやるが、どうだ」
 「ほんなら、なおのこと出さねえっす」
 「よしよし。それならば、まず娘に化けてみよ」
ということになりまして、火車猫は娘に化けたんですと。観音さまが、どこからか花嫁衣裳(いしょう)を持ってこられて、その娘に着せたら、きれいなきれいな、どこから見ても立派な花嫁姿(すがた)になりましたんですと。


 火車猫の花嫁ごは、観音さまに連れられて、山の奥の奥にある炭焼き男のところへ行ったんですと。
 ほして、観音さまの仲人で、いよいよかための盃(さかずき)、三々九度というとき、家の隅(すみ)っコからネズミが、チュウチュウ出てきた。
 ほうしたら、花嫁ごはネズミが気になってしょうがない。耳が立ったり、ひっこんだり、ヒゲも出たりひっこんだり。だんだん我慢(がまん)出来なくなってきて、とうとう元の猫の姿になって、いきなりネズミに飛びかかったんですと。
 化け猫になっても、観音さまに人間にしてやると約束されても、やっぱり猫は猫。やっぱり本性を顕(あらわ)すもんだって、むかしからみんなが言うたものです。
 
 どんびんからりん、すっからりん。

「火車猫」のみんなの声

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悲しい

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