「あるところに人里離れた寺があった」という言い方はおかしいのではないですか。「ある人里離れたところに寺があった」とすべきかと思います。 粗探しをしているわけではないのですが、石は焼いても赤くはなりません。
― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかしあったと。
あるところに人里(ひとざと)離(はな)れた寺があったと。
来る和尚(おしょう)さまも、来る和尚さまも、みんな何かの化物(ばけもの)にとって食われて、次の日には居(い)なくなってしまう。
村では、和尚さまが居なくては法事(ほうじ)も出来ん。困っておったと。
ある時この寺に、どことなくとぼけた顔の和尚さまがやって来たと。
村人たちは、こんな和尚さまでもまたまた化物に食われては大事(おおごと)だと言うて、村の中に一軒(いっけん)、家を用意して住まってもらうことにしたと。
村の長(おさ)が、和尚さまに今までの事を話したと。
「そんな訳(わけ)で和尚さま、寺は通い寺っちゅうことにしましただ。明るい内だけ寺に居て、暮(く)れ方には寺を出て下せえ」
「ご厚志(こうし)ありがたい、ナマンダブ、ナマンダブ。が、何ですのう、仏さまが『これも身の修業(しゅぎょう)、寺に住まってみよ』と、こう言っとられるからして……」
というて、気にしない風(ふう)だと。そして、頭をつるり、つるりなでまわしながら、その寺へ入って行ったと。
夜になって、和尚さまは囲炉裏(いろり)に火を焚(た)き握(にぎ)り拳(こぶし)ほどの石をくべておいたと。
「温(ぬく)い、温い」
言うていたら、
「お晩です」
言うて、一人の旅の僧(そう)が入って来たと。
「和尚さま、一晩、泊(と)めてくんねぇか」
「どうぞ、どうぞ、ささ、こっちへあがって、火さあたれ。おれも来たばかりで蒲団(ふとん)もないから、二人して腹(はら)あぶりして夜を明かすべ」
いうて、二人して火に腹あぶりしたと。
そのうち、旅の僧がコックリ、コックリ眠りかけたと。
和尚さまも火箸(ひばし)に手をかけて、頭を垂(た)れて眠ったふりをしたと。そうしてうす目を開けて、旅の僧の様子をうかがっていたと。
しばらくしたら、旅の僧は着物の前をはだけて、金玉(きんたま)の袋(ふくろ)をのばし始めたと。
ググーッとのばしては和尚さまを見、グイーッと広げては和尚さまを見るのだと。
金玉袋はのばしにのばし、広げに広げて、一反風呂敷(いったんふろしき)ほどになったと。和尚さまは、
「やっぱり、おれの思った通りだ」
思うて、今度はもっと頭を垂れて、深く眠ったふりをした。そしたら、旅の僧は、広げたそれを和尚さまに被(かぶ)せて、和尚さまを包み捕(と)ろうとしたと。
和尚さま、火箸でまっ赤に焼けた石をつかむと、ひょいと、その中に入れてやった。
その途端(とたん)
「ぐゎぁぁー」
と、ものすごい悲鳴(ひめい)をあげて、土間(どま)に転げ落ち、戸にぶつかり破(やぶ)って逃(に)げて行ったと。
次の朝、村の衆(しゅう)がおそるおそるやって来た。
「和尚さま、いたか」
「いた、いた」
「化物でないかや」
「いやいや、本当の和尚だ」
「ほだか、いや、よがった。ゆんべ、夜さりに大っきな悲鳴が聞こえたもんだで」
「ほだかや、化物が逃げて行った声だ。裏山に穴があるべから、行ってみるべか」
いうて、村の衆に真っ赤な南蛮(なんばん)を干(ほ)したのを集めさせ、裏山へ行ったと。
穴を見つけて、その入り口で火を焚いて、南蛮をいぶしたと。煙(けむり)をあおぎ込んでやったら、穴の中のものは、夕(ゆ)んべは金玉袋に焼け石を入れられる、今朝は南蛮いぶしにされるで、せつなくて、せつなくて、這(は)い出て来たと。
「それっ」
って、みんなで捕(と)ってみたら、大っきな古狸(ふるだぬき)であったと。
それからは、その寺に化物は現れなくなって、どことなくとぼけた顔の和尚さまは、村人たちから、えらい和尚さまだと崇(あが)められて過ごしたと。
むかし、とーびん。
「あるところに人里離れた寺があった」という言い方はおかしいのではないですか。「ある人里離れたところに寺があった」とすべきかと思います。 粗探しをしているわけではないのですが、石は焼いても赤くはなりません。
昔、駿河(するが)の国、今の静岡県の安倍というところに、亭主(ていしゅ)に死なれた母親と二才の赤ん坊がおったそうな。母親は、毎日赤ん坊をおぶってはよそのお茶摘みを手伝って、やっと暮らしておったと。
むかし、津軽(つがる)のある村さ、そりゃあ、そりゃあ、ケチで欲(よく)たかりの金貸しがいたど。ケチもケチも、この金貸しゃあ情(なさ)け容赦(ようしゃ)なく銭(じぇん)コば取りたてるもんで・・・
「化狸と和尚」のみんなの声
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