福は外にたくさんまいて! 鬼は内に引き受ける! 嫌なものをあっちに行け!というとこっちに戻ってくるそうだ!と誰かが言ってたことを聞いてから、毎年「鬼は~内~、福は~外」と言って豆をまいています。 そうしたら、家にはたくさん幸せなことがやって来てます。( 60代 / 女性 )
― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかしむかし、あるところに貧乏(びんぼう)な夫婦がいてあったと。
節分が近づいた頃、夫と女房は、
「そろそろ節分がくるが、今年から『福は内、鬼は外』っちゅうのをな、やめたいと思うんだけど、どうだべか」
「あれま、どうしてだぁ」
「うん、節分には全部の家から『鬼は外』っちゅうて豆ぇぶっつけられる鬼がなんだか可哀想(かわいそう)になった。『鬼の目ン玉ぶっつぶせ』なんて、今年は言えそうにない」
「なしてぇ」
「うん、去年は作物(さくもつ)が不作の年だったのに、年貢(ねんぐ)はまけてもらえなかったべ。この村でも食うや食わずの家はいっぱいある。俺らん家(ち)も、かつかつの貧乏暮らしだ。天気に蹴られ役人にいじめられ、泣きたい、逃げ出したいと何度も思ったべ。鬼だって世間じゅうから煎(い)り豆ぶっつけられて、泣きたいと思っているべ。節分の日ばかりは、鬼も俺らと同じでないかと思ってな」
「あれまぁ、そう言われればそうだぁ。そんなら、今年からどうするんかい」
「世間さまとは変わった家が一軒ぐらいあってもいいべ。俺らん家は『福は外、鬼は内』って言ってやるべ」
「どうせ福は来そうにないから、そうしようか」
と、こう話し合うたと。
節分の日が来た。
あっちの家でもこっちの家でも、
「福は内、鬼は外」「鬼の目ン玉ぶっつぶせ」
って始まった。
鬼ども、「イテテッ、イテテッ」って逃げまどっていたら、
「福は外、鬼は内」
って呼ばっていた家があった。
「はぁ、いい家があった」
って、鬼ども皆そこの家さ、逃げ入ったと。
そこの夫と女房に、
「いやぁ、ありがてぃ。今晩は世話になる」
って言うたら、夫が、
「俺らとこ貧乏でなんにもないけど、茶でも飲んでひと休みしてけぇ」
と言うた。
「茶より酒がいい。今出すからお前(め)も呑め」
って言うて、打出の小槌(うちでのこづち)で御馳走(ごっつぉ)を出す、酒を出す、あれよあれよという間に酒盛りが始まったと。
節分の晩に馬鹿に景気のいい、どんちゃんどんちゃん音がするものだから、隣の爺さまが覗きにきた。
覗いてみたら鬼どもが酔払って大宴会をやっている。
この家の夫と女房も酒呑んで御馳走を食べて、いい気なもんだ。爺さま、夫を手招きして呼び、
「お前、酔払っているだか。鬼ども集めて大丈夫だか」
って聞いた。酒呑んでいい気分の夫は、
「俺らは正気だ、大丈夫」
って、言うた。そしたら、鬼どもピクンとして、
「なにぃ※鐘馗(しょうき)さまだとぉ」
って言うて、大あわてだ。
「こりゃ大変だぁ。ここの夫、鐘馗さまが化けとる」
「どうりで『鬼は内』って言うはずだ。いやぁ殺されねぇうちに、みんな逃げろやぁ」
って言うて、鬼ども、皆逃げて行ったと。
あとには、打出の小槌が、あっちにもこっちにも転がってあった。夫と女房二人してその打出の小槌を拾い集めた。振ってみたら、この小槌は米が出る、こっちの小槌は金が出るして、大した分限者(ぶげんしゃ)になったと。
※鐘馗…道教系の神。日本では疱瘡除けや学業成就のご利益があるとされ、端午の節句に絵や人形を奉納する。
こんなことがあるから、人と変った事をしてもいい事があるもんだ、って昔の人は言うたもんだと。
どんべんからりん
すっからりん。
福は外にたくさんまいて! 鬼は内に引き受ける! 嫌なものをあっちに行け!というとこっちに戻ってくるそうだ!と誰かが言ってたことを聞いてから、毎年「鬼は~内~、福は~外」と言って豆をまいています。 そうしたら、家にはたくさん幸せなことがやって来てます。( 60代 / 女性 )
むかし、ある村にすぐれた娘(むすめ)をもった長者があった。 娘は器量もよいが、機織(はたおり)の手が速く、朝六(む)つから暮(くれ)の六つまでに一疋(いっぴき)の布(ぬの)を織(お)り上げてしまうほどだったと。
「福は外、鬼は内」のみんなの声
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