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きじになったむすめ
『雉になった娘』

― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 佐藤 義則
整理・加筆 六渡 邦昭

 昔々(むかしむかし)。
 一人の美しい娘持った婆(ばあ)さまあったけド。
 あるとき、村の殿(との)さまァお通りになって、ほの娘ば見染(みそ)め、
 「どうぞして、奥方(おくがた)にしたいから呉(け)ろ」
 って、言って来たけド。婆さま良(え)え気して、
 「ハァ殿さまの奥方になるざァ、願ってもない事でな」
 って喜んでだら、すぐに、でっすらど嫁入り仕度(よめいりしたく)寄ごしたけド。


 婆さまと娘、浮(う)き浮きしてっと、隣(とな)りの国の殿さまも聞きつげで、 
 「どうが、俺(おれ)さ、その娘ば呉ろ」
 って、こっちも負げねで、でっつらたんと金銀綾錦(きんぎんあやにしき)たがって来たけド。
 こいづァこでえらんねェ。婆さま、欲(よく)強ぐして、どっつさも良え返答したっけドャ。 
 つっと、両方(りょうほう)の殿さま、待て暫(しばし)がねぐなって、
 「早よ娘ば呉ろやえ」
 って、催促(さいそく)に来たけド。
 動転(どで)した婆さま、とっさな事で娘ば隠すのにまごついですまてハア、娘を土間(どま)さ屈(しゃご)ませて莚(むしろ)かぶせで、
 「娘ァ、今日ァ町ィ買出すさ行ったった」
 って、嘘(うそ)っコついだど。二人の殿さま、
 「んだら、戻って来るまで待っで、どっちさ嫁(とつ)ぐか、決めんべァ」
 どて、にらめっこしてだげんど、娘ァなかなか来ねけド。


 ほのうち、土間の莚、ガサゴソ動いだけド。
 二人の殿さま、
 「ハテ、婆家(ばあえ)の莚ァひとりで動ぐでァ。なじょした事だ」
 って、聞ぎたださったけド。
 婆さまァびっくらして、
 「ハァ、これァ、今朝山がら捕(と)っつかめできた雉(きじ)コば包(くる)んでるならざェ」
 って、嘘っコこいだけド。二人の殿さま、
 「そうか」
 って、言ったけド。

 ほのうち夜になって、
 「娘ァ戻って来ねな、仕方ねっちゃ」
 って、待ちきらねで、殿さまら帰って行ったけド。
 婆さま、やれやれっで、土間さへたりこんで、
 「娘コや、早よ出でござえ」
 って呼ばったが、ハテ、何の返答(へんとう)もねえ。なじょした事だかどて、莚ば剥(は)いでみっと、娘は居ねで、一羽の雉コ居るばりだけド。


 婆さま、おったまげでっと、雉コァ、
 「あんまり欲濃ぐした罰当たったざェ」
 って、泣ぎ泣ぎ、山さ飛んでったけド。
 ほんで、雉コ、神さまがら、
 「三万三千年の内、人さ良い事(ごと)して呉ったらば、人さ戻してける」
 って教えらったさえ、地震(じしん)や雷(かみなり)さまの来るどきァ、
 「気ィつけろォ、ケンケン
 気ィつけろォ、ケンケン」
 って、叫んで歩いで、
 「人ァ羨(けんな)りええ、けんなりええ」
 人がうらやましいって、こぼすんだド。

 どんびん。

「雉になった娘」のみんなの声

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