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わかがえりのみず
『若返りの水』

― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 佐藤 義則
整理・加筆 六渡 邦昭

 昔、あったけどな。
 ある所(どこ)さ、爺様(じさま)と婆様(ばさま)、仲良ぐ暮らし立てでいだけど。
 あるとき、爺様、山さ柴刈り(しばかり)さ行って、一生懸命(いっしょうけんめい)柴刈ってるど、喉(のど)コかわいで焼げるみだいなったけど。
 爺様、耐えきんねぐなって、あっつこっつど水コ探して歩いだらば、沢コの岩の間(あいだ)から、チョロチョロど冷(ひや)っこい水コ垂れでいだなば見っけで、口あてがってゴックラ、ゴックラど呑(の)んだけど。
 ほしたら、体ァもぞもぞして、とってもええ気持(きもず)なって、せいせいしたけど。


 ほして、ほの水コで顔コ洗って、水さ影(かげ)映(うつ)して見っと、爺様の面(つら)の皺(しわ)コも伸びで、若い衆(し)になってだけど。おったまげで起ぎ上って見っと、これァまた、曲(まが)ってだ腰(こし)、ぴんと伸(の)びていだけど。
 爺様、喜んで、柴コ背負(しょ)って早々(はやばや)と家さ来て、
 「もォすもォす、婆様。今、来たぞえ」
 って言うど、婆様、
 「もォす、俺ば呼ばったなァ、どごのどなたであんす」
 って、庭さ出で見だども、知らね若い衆一人柴コ背負っていだんで、婆様、わがらねでいだけど。 


 「山の水コ呑んだらば、こがえ若くなったのす」
 って爺様ァ理由(わけ)語って聞かせるど、婆様、びっくらして、良ぐ良ぐ見っと、若い衆の着物ァ、朝マ爺様着て行ったもんで、みな本当らどわがって、
 「爺様爺様、何だて、また、爺様ばりええ事だで。ひとづ、俺も若くなりてがら、ほの水コ出はっ所、教えで呉(け)ろや」 
って言って、爺様がら山の事ばくわすく聞いで、明日の朝マ早ぐに出はって行ったけど。

 若え水コァ 何処(どこ)だえ
 若え水コァ 何処だえ

 って呼ばりながら、婆様、杖棒(つえぼう)コついで、水コたずねで行ったらば、

 こっつ(こっち)
 こっつ

 って岩の間から、水コ呼ばってえだけど。


 婆様、喜ごんで、這(は)って、あっぷらかっぷら、息もつかねよにして呑んだど。
 だんだん体の内(なか)がむずがゆぐなって、面ばなでてみっと、皺も伸びでるす。腰も伸びでるす。婆様、ますます欲濃(こ)ぐして、まっと、まっと若ぐなって、爺様ばびっくらさせてやんべどで、水コ呑んでるうぢ、童(わらす)になったさえ、
 「あどは良えわ」
と思ってらば、赤子(あかご)になってすまたど。 
 家では、若衆になった爺様、晩方(ばんかた)なても婆様戻って来ねさげ、やきもきしていだげんと、だんだん暗ぐなるんで、行灯(あんどん)つけで、
 「婆様やァ、婆様やァ」
 って呼ばって、山さたずねで行ったらば、やっぱす、欲張って呑み過ごすたもんで、婆様の着物ん中さ、小(こ)んまい赤子が「爺様ァ爺様ァ」って泣えったけど。


 爺様、仕方なすに赤子の婆様ば抱(かか)えで来て、育てだど。
 ほんでな。あんまり欲ばるもんでないぞえ。

 どんびん三助、猿眼(さるまなぐ)、猿の眼さ毛コ生えで、けんけん毛抜きで抜いだれば、めんめんメッコ(牛目)になったどさ。

「若返りの水」のみんなの声

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